新刊紹介

2019年7月9日

米本浩二著『不知火のほとりで 石牟礼道子終焉記』

 7月7日付毎日新聞「今週の本棚」で紹介された。

 米本浩二さんは、毎日新聞西部本社学芸グループの記者で、昨年『評伝 石牟礼(いしむれ)道子 渚(なぎさ)に立つひと』(新潮社)で第69回読売文学賞の評論・伝記賞を受賞した。

 その書評――。

 作家・石牟礼道子の逝去に立ち会った三十五日間の日記と、ここ数年、新聞記者として彼女に「密着取材」をする一方で、常に身近にいて「渾身(こんしん)介護」をした著者によるエッセー集。

 著者はこれの前に『評伝 石牟礼道子--渚に立つひと』という名著を書いている。そちらが本人からの聞き書きとリサーチによる伝記だったのに対して、今回の本は作家の人となりを伝えるエピソードの他に訪れた人々のことも加えて、大きな図柄の中にこの人を置いている。

 やはり家族の話がいい。死期が迫った父・亀太郎に焼酎を控えるように言うと父は怒って、「一生、ろくなことがなかったのに、『こういう世の中に生きとらにゃならんのは、さぞきつかろう。せめて焼酎なりと飲み申せ』となして言わんか」と返したという。酒飲みの勝手な理屈がおかしくてほほえましいが、しかしこの父は「母ハルノと同様、前近代の民、いわば精霊の眷属(けんぞく)であ」り、それが彼女の文業の基礎だった。

 石牟礼道子は「手伝い」よりも「加勢」という言葉を好んだ。人生の基本の姿勢は闘うことだった。それならば「加勢」がふさわしい。(狄)

(毎日新聞出版・1944円)

(堤  哲)