新刊紹介

2020年8月17日

『特攻と日本軍兵士 大学生から「特殊兵器」搭乗員になった兄弟の証言と伝言』

 毎日新聞客員編集委員広岩近広さんの近著。8月15日付毎日新聞「今週の本棚」で紹介された。

 ——本紙朝刊(大阪本社発行)2018年11月から今年3月まで連載された「昭和の戦争を語る」を大幅に改稿したものである。ともに特攻から生還した兄弟、岩井忠正氏と忠熊氏と、ジャーナリストの広岩近広氏との出会いが、本書に結びついた。

 忠正氏は慶応大から、忠熊氏は京都大から徴集された。人間魚雷「回天」や特攻ボート「震洋」といった「必死の特殊兵器」による非道な訓練を強いられた。聞き役である広岩氏は繰り返し問う。なぜ最高の教育を受けながら「十死零生」の特攻要員となることを受け入れたのか、と。

 長い問答を通して明かされる、拒絶できぬ時代の「空気」。だが、それは一方的に押しつけられたものではない。国民の側にも受け入れる素地があったことが率直に語られる。「備えあれば憂いあり」。忠熊氏の言葉が印象的だ。強大な軍事力という「備え」が、破滅的な戦争という「憂い」をつくりだしたのだ、と。

 集団的自衛権の次は、敵基地攻撃能力が論じられるご時世である。75年前の悲劇から何を学んだのか。改めてその問いが胸を突く。(彦)

 連載は62回に及んだ。広岩さんは1975年入社。大阪社会部やサンデー毎日で主に事件と調査報道に携わり、2005年大阪本社編集局次長として戦後60年企画の原爆報道を担当。その後平和担当の専門編集委員。現在、客員編集委員。

 毎日新聞出版刊、定価:2,000円+税。ISBN:978-4-620-32642-9