新刊紹介

2021年1月14日

あれから45年、作家、真山仁さんがノンフィクション大著『ロッキード』刊行

 590ページにのぼる大著『ロッキード』が文藝春秋社から1月10日、出版された。週刊文春に「なぜ角栄は葬られたのか?」のサブタイトルで2018年5月から2019年11月まで連載された作品に大幅加筆修正した、との触れ込み。毎日新聞関係者も随所に登場、毎日同人の出版物が引用されて、改めて、いまなぜロッキードか、と考えさせられる。

 著者は1976年2月5日に、米上院外交委員会多国籍企業小委員会でロッキード社が航空機売込みのため巨額の工作資金を日本などの政治家や秘密代理人に贈っていたとの元社長の証言が明らかにされ、日本を直撃した瞬間から、今も残る謎や疑問を追いかけて大作を仕上げている。著者の視点は、21億円が支払われた秘密代理人、児玉誉士夫が暗躍したといわれるP3Cなど軍用機売込みの謎が捜査の対象とならず、全日空のトライスター導入に事件が矮小化されたのは何故か、田中角栄元首相を有罪とした司法の判断・手続きは適正だったか、といった問題意識を基に、考えられる限り元裁判官や弁護士、元特捜検事や政治家ら関係者に取材して、証言や記録を精力的に綴っている。捜査の主任検事だった吉永祐介さん(後に検事総長)の個性が、ありありと浮かぶ。

 こうした取材の過程で、社会部の『毎日新聞ロッキード取材全行動』(講談社)、『児玉番日記』(毎日新聞社)、『構造汚職 ロッキード疑獄の人間模様』(国際商業出版)や政治部の『日本を震撼させた200日』(毎日新聞社)、『政変』(角川書店)、『黒幕 児玉誉士夫』(エール出版)、『角栄のお庭番 朝賀昭』(中澤雄大著、講談社)、『田中角栄と中曾根康弘 戦後保守が裁く安倍政治』(早野透、松田喬和著、毎日新聞出版)などが引用され、参考文献として記載されている。山本祐司元社会部長の『特捜検察』(角川書店)、西山太吉著『記者と国家 西山太吉の遺言』も引用文献にあげられた。拙著『陽気なピエロたち―田中角栄幻想の現場検証』(社会思想社)も取り上げられている。毎日新聞の取材協力者として、西山さんのほか松田喬和さん、板垣雅夫さんの名前もある。

 昨年出版された「ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス」(春名幹男、株式会社KADOKAWA)が米国の公文書館などに残された記録を主な材料に事件の「謎」に迫ったのに対し、このノンフィクションは人間の取材に力点を置いた成果だ。その推論や論法に全面的に同意するものではないが、ロッキード事件が現役の新聞記者も詳しくは知らない事件となった現在、改めて焦点を当ててくれたことには感謝したい。

 私が真山さんの取材を受けたのは、2017年10月と本文に記されている。事件発覚当日の2月5日の状況などが再現され、当時「30歳」と表現されているのだが、75歳のいまも昨日のことのように記憶が蘇る。

(高尾 義彦)