新刊紹介

2021年4月20日

『はじめてのニュース・リテラシー』-元ワシントン特派員、白戸圭一さんが出版



 立命館大学国際関係学部教授、白戸圭一さんが19年間の毎日新聞記者としての体験などを基に、ニュース、情報とどのように付き合うべきか、学生や若い社会人を主な対象に、具体的事例を盛り込んで、丁寧に解き明かしている。

 活版印刷の普及が進んだ17世紀初頭に「ジャーナリズム」が誕生した経緯など歴史を踏まえて、「情報」をめぐる現代社会の問題点を指摘し、読者としての学生を意識しつつ、新聞記者経験者が読んでも、考えさせられる分析に富む内容になっている。

 新聞とテレビが、ほぼ情報発信のすべてを支配していた時代から、いまはSNSなどの進化によって、誰でもニュースや意見を発信できる時代になった。

 ある意味では民主主義にとって良き時代の到来なのかもしれないが、トランプ米大統領の誕生に伴って、「フェイク」と名づけて気に入らない情報を排除する風潮が拡散したことや、ネット社会に真偽不明の情報が飛び交い、それらの情報を事実と信じる、あるいは信じたい人たちによって、誹謗中傷や責任を取らない匿名発言が氾濫し、不幸な時代に直面している。

 こうした時代に必要とされる「ニュース・リテラシー」とは何か、白戸さんがこの著書で伝えたい主眼はそこにある。読者は「正確な事実をつかむための作法」をこの著書から学んでほしい。

 白戸さんの批判の目は、事実、情報を伝える新聞社などメディアにも向けられている。本来の調査報道ではなく捜査情報の先行報道に大きな力を込めている取材現場や、ニュース価値の判断の仕方、記者の育て方に関する疑問にも言及している。

 白戸さんは立命館大学大学院国際関係研究科修士課程を修了し1995年に毎日新聞に入社。鹿児島支局、西部本社報道部、東京本社外信部兼政治部、ヨハネスブルク、ワシントン特派員などを歴任。2014年に毎日新聞を退社し三井物産戦略研究所に移り、欧露中東アフリカ室長などを経て、2018年から母校の教授を務めている。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授も兼任、一貫してアフリカにこだわっている。『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、朝日文庫、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『アフリカを見る アフリカから見る』(ちくま新書)などアフリカに関する多数の著書がある。

(高尾 義彦)

 「はじめてのニュース・リテラシー」白戸圭一著 ちくまプリマー新書 924円(税込)ISBN:978-4-480-68398-4