新刊紹介

2022年7月26日

元外信部編集委員、永井浩さんが『ミャンマー「春の革命」:問われる[平和国家]日本』刊行

 ミャンマー(ビルマ)には、厳密にいうと日本のような四季はなく、春と呼べる季節はないそうだ。しかし京都大学で客員研究員として過ごした経験があるアウンサンスーチーさんは、植物が芽生え萌え出る季節のイメージは日本と同じだという。2021年2月に国軍によるクーデターが起き、民主主義の回復を求めて抗議の行動に立ち上がった人々は、非暴力による不服従運動を「春の革命」と表現し、革命を目指す闘いはいまも続く。

 永井浩さんは毎日新聞にスーチーさんの『ビルマからの手紙』を連載した1996年以来、スーチーさんの活動を取材してきた。新聞記者としての現役を退いた後も、インターネット上のニュースサイト「日刊べリタ」を立ち上げ、日本の新聞やテレビでは目にすることの出来ない情報を発信している。

 この著書でまず取り上げられているのは、国軍のクーデターに対する日本の対応への異議申し立てである。日本は最大のODA(政府開発援助)をミャンマーに投じてきたが、クーデター後も新規のODAは見送ったものの、既存分はそのままの状態が続く。日本政府は国軍とスーチーさんの双方に「独自パイプ」があるといい、このルートを通じて対応すると表明してきたが、その裏に見えてくるのは国軍に肩入れする日本の姿だった。

 国軍が昨年末までに1300人もの市民を虐殺してきた経過の中で明らかになってきた「独自のパイプ」の一つは「日本ミャンマー協会」(会長・渡邉秀央元郵政相)の存在である。協会は日本企業のミャンマー進出の窓口となり、主に国軍系企業との関係を密接に維持してきた。渡邉会長はクーデターの首謀者であるミンアウンフライ国軍総司令官と親しく、クーデター以前の2014年から日本財団(笹川陽平会長)とも協力して自衛隊と国軍将官級交流プログラムなどを進めてきた。

 こうした関係から、日本政府が強調する「独自パイプ」は、不服従運動に立ち上がった市民より、国軍寄りの動きが際立つことになった、と指摘されている。ミャンマー進出の日本企業約400社の経済的利益を優先し、米国ですら国軍政府に制裁措置をとっている中で、日本政府は動こうとはしていない。

 「日本は、国軍による国家テロへの加担者」「私たちの平和と経済繁栄の一部に、ミャンマーの人々が流した血の匂いが潜んでいる」と永井さんは書いている。在日のミャンマー人たちが「日本のおカネで人殺しをさせないで!」と抗議の声を上げている現実。ロシアに侵攻されたウクライナだけでなく、もっとミャンマーに目を向けるべきだ、と思わざるを得ない。平和と民主主義の闘いへの支援を求めるさまざまなメッセージを発信している隣人の声にどう向き合ったらいいか、と永井さんは問いかける。

 自宅軟禁から刑務所内の施設に移され、自由を奪われているというスーチーさん。通算15年の自宅軟禁の時期も含め、一貫して民主化運動の先頭に立ってきた彼女を支える思想は何なのか。ここでは「エンゲージ・ブッディズム(社会参画する仏教)」という言葉で、行動する彼女の思想、価値観が説き明かされている。仏教の「慈悲と誠実」。外交官だった母親とともにインドで暮らした体験から学んだガンディーの「非暴力不服従」の思想をはじめ、さまざまな仏教の実践者や研究者の事績も紹介されている。

 スーチーさんは1945年6月19日生まれの喜寿。誕生日が同じである縁もあって、彼女の動静をいつも気にしてきた。彼女たちの闘いが勝利の日を迎える日を願ってやまない。

(高尾 義彦)

 『ミャンマー「春の革命」: 問われる[平和国家]日本』は、社会評論社から2022年7月29日刊。1,800円+税。

 「日刊ベリタ」のURLは http://nikkanberita.com/