新刊紹介

2022年11月24日

元東京代表、秋山哲さんが米寿で小説第2作『南進の口碑』をオンデマンド出版

 小説の第2作目、『南進の口碑』を出版した。筆名は2年前の第1作『耳順居日記』と同じで、「檜節郎」である。ちょっと種明かしをしておくと、「秋」という字は分解すると「火ノ木」ということで使うことにしたペンネームである。

 前作と同様に、アマゾン方式のオンデマンド出版という方法で出版した。少々パソコンと苦闘する場面もあるが、表紙から本文、奥付まで、全部自力でデジタル化して送り込めば、発行にかかわる経費は原則ゼロ円である。アマゾンで堂々と販売、翌日配達してくれる。ついでに言っておくと、今回の小説の売価は1980円で、1冊売れるたびに300円台がわたくしの手元に入る。

 前置きが長くなったが、『南進の口碑』は、太平洋戦争前夜からの日本の「南進」を背景に、「南洋特別留学生」という日本の国策によって日本にやってきた南洋の青年たちの苦闘の物語である。

 恩人である日本人現地高官の銃殺、親友であったオマールとユスフの原爆被災死、インドネシア独立戦争の現場での日本人ゲリラ隊長との交流など、主人公アグスをめぐる悲劇をつづる。日本女性と結婚し、男の子を得るが、田中角栄のインドネシア訪問の機に起こった反日暴動の中で、最愛の息子を銃弾で失う。

 失意のアグスが日本を訪れてみるのは、原爆死した親友二人の立派な墓、スカルノ大統領が建てた日本人ゲリラ隊長の記念碑、彼らの広島での寮の跡地に立つ記念碑である。

 通底しているのは、個人の力ではどうすることもできない「不条理」である。それにも関わらず、人と人とのつながり、心のつながりというものが、国を超え、人種を超えて続く、ということである。

 「口碑」という言葉は使われなくなっているが、広辞苑によれば「碑に刻みつけるように口から口へ永く世に伝える」という意味である。「南進」の引きずる影を忘れてしまってはいけない、という思いが、ジャカルタ特派員であった男を突き動かしたのである。

 これを書いている2022年11月23日は、『南進の口碑』の発行日であり、わたくしの88歳の誕生日である。

(秋山 哲)