新刊紹介

2022年12月5日

元学芸部美術担当記者、三田晴夫さんが、渾身の『同時代美術の見方 毎日新聞展評 1987-2016』刊行

 重さ2.1キログラム、厚さ5センチの分厚く持ち重りする本が広島市の藝華書院から宅配便で届いた。出版社の名前に心当たりはなく、恐る恐る開いてみたら、三田(さんだ)晴夫さんの貴重な著作が現れた。

 美術担当記者として、毎日新聞に執筆した展評(展覧会評)を中心に、1450項目が収録されている。882頁、人名やテーマ展、画廊・美術館などに分けた索引だけでも50ページに達する。

 序文によれば、美術担当記者としての出発は、毎日新聞入社8年後の1982年だった。西部本社、福岡総局で美術評論を担当していた田中幸人さんが東京・学芸部に異動になったため、後任に指名されたからだという。田中さんは、のちに私(高尾)が浦和支局長当時、埼玉県立近代美術館長としてお世話になった懐かしい名前だ。

 三田さんは、先輩の田中さんから「美術記者にとって、誰よりも多く作品発表の現場を踏むことが、(美術専門書の勉強より)もっと大切」と発破をかけられたことを大切にしてきた。もともと音楽や美術に素養があったわけではなく、社会部記者として出発した経歴から、終生、現場を大切にしたことの集大成、現場を歩き続けた軌跡がこの労作としてまとめられたといえる。

 「執筆したすべての美術展評をまとめて一冊の本に」という企画は、現役記者の定年退職間際に、月刊誌『美術手帖』元編集主幹、椎名節さんから声をかけられたことがきっかけだった。しかし2008年の退職後も、美術評論家として現場巡りを続け、10数年を経て74歳にして、ようやく念願が叶うことになった。

 三田さんとは現役記者当時、個人的には面識がなかった。昨年11月に、体調を崩していた本人に代わって、ご家族から毎友会あてに「展評」などをまとめて単行本化する場合の著作権料がどの程度になるのか、問い合わせがあった。知的財産ビジネス本部に話をつないで、その後の経過は聞いていなかったが、その縁で大著が「謹呈」された、と納得したことだった。

(毎友会 高尾 義彦)

『同時代美術の見方 毎日新聞展評 1987-2016』は、㈱藝華書院刊、8,000円+税。

㈱藝華書院は〒731-0231 広島市安佐北区亀山7-7-32 ☎082-847-2644 URL www.geika.co.jp

 三田晴夫(さんだ・はるお)さんは1948年福岡県戸畑市(現・北九州市戸畑区)生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。 1974年毎日新聞社に入社。社会部記者を経て、毎日新聞学芸部美術担当記者として勤務。2008年退職。毎日新聞退職後、美術ジャーナリストとして活動のかたわら、女子美術大学大学院、多摩美術大学、 早稲田大学で現代美術の非常勤講師を勤めた。美術評論家連盟会員。著書に、『教養としての近現代美術史』(2019年、自由国民社)。画集内評論に『中村宏画集 1953-1994タブロー機械』(1995年、美術出版社)等。展覧会図録評論に、『イヴ・ダナ彫刻作品展』(1991年、国際教育学院文化事業部)、『菊畑茂久馬-天へ、海へ』(1988年、徳島県立近代美術館)、『彫刻林間学校展』(2017年、東京芸大美術館/軽井沢メルシャン美術館)等。「美術手帖」「月刊ギャラリ-」等に展覧会月評を執筆。