新刊紹介

2023年2月24日

元ローマ特派員、藤原章生さんが新刊『酔いどれクライマー 永田東一郎物語~80年代ある東大生の輝き』

 皆様、ご無沙汰しております。1989年入社の藤原章生です。私は2021年4月末、コロナ感染で入院中に定年退職し、今は契約記者として夕刊特集ワイド面に折々記事を書いております。

 表題の本は定年後の21年秋から22年春にかけて連載した記事を原案に、昨秋からゼロから書きなおしたものです。新聞では「東一郎伝」としておりましたが、新聞記事の3倍の分量となり、「物語」にしました。

 2005年2月、46歳の若さで酒の飲みすぎがたたり、食道静脈瘤破裂で亡くなった永田氏は、上野高校山岳部の私の3年先輩に当たります。彼の死を知ったのは2017年秋で、13回忌の半年もあとでした。その直後、私はメモ帳に「永田東一郎物語」と書き、すでに執筆を決めており、今回、5年越しで実現しました。

 なぜ永田氏を? と思う方もおられましょうが、取材で世界各地の著名人、国内の有名人などに会い、中には親しくつき合った方もいますが、そんな数千人の中でも永田氏が際立って面白くかつ変な人だったからです。

 今回、本にするに当たり、苦心したのは、無名人の生涯をどう読んでもらうかでした。たとえば小説の場合、無名の主人公に読者が共感できるのは、その人物の中に自分を見いだし、その人の見ている世界が自分と重なるのが大きな要素だと私は思っています。

 そんな思いから、単に主人公の生い立ちを追うだけでなく、主人公とナレーター(筆者)との心の問答を意識しながら書き進めました。「できるだけ長い作品にしたい」という編集者、雑誌「山と溪谷」の元編集長、神長幹雄氏の助言もあり、70年代から80年代にかけての日暮里界隈、上野高校、東大スキー山岳部の情景や、主人公の心象を行間に匂わせるよう心がけました。

 何よりも、立ち読みした途端、あれよあれよという間に10ページも読んでしまうという吸引力も意識しました。

 果たして少しでも成功したかどうか。皆様から忌憚ないご意見をいただければと思っております。

(藤原 章生)

 『酔いどれクライマー 永田東一郎物語~80年代ある東大生の輝き』(山と溪谷社)は2月18日発売。384ページ、1980円(税込み)。

 藤原章生(ふじわら・あきお)さんは1961年、いわき市生まれ、東京育ち。北大工学部卒後、住友金属鉱山に入り、89年に毎日新聞に転職。長野支局、大町駐在を経てヨハネスブルク、メキシコ市、ローマ特派員。編集委員として郡山駐在後の2014年から現在まで夕刊特集ワイド面に執筆。「原子の森 深く」(後に別名で書籍化)、「ぶらっとヒマラヤ」(同名で書籍化)など連載多数。現在は「イマジン チリの息子と考えた」を同欄に連載中。
ホームページはhttps://infofujiwara61.wixsite.com/akiofujiwara