新刊紹介

2023年10月20日

校閲センターが「校閲至極」「校閲記者も迷う日本語表現」を刊行

 毎日新聞校閲センターは8月、9月と立て続けに「校閲至極」「校閲記者も迷う日本語表現」という2冊を毎日新聞出版から刊行しました。

 いずれも校閲記者たちが書いたものの集成ですが、意外と性質の異なる2冊それぞれの担当者から、紹介させていただきます。

 「校閲至極」は「サンデー毎日」連載の同名コラムをまとめたものです。サンデーの連載は2018年6月10日発行号から始まり、250回を超えて続行中です。

 本に収録されたのは74編です。帯に作家・逢坂剛さんからの「校閲を軽んじれば、そのつけは確実に回ってくる」などというお言葉を載せています。これは連載に注目された逢坂さんに執筆者2人がお会いする機会に恵まれたことで実現しました。

 出版後にもいろいろな方から好意的なコメントをいただきました。例えば「週刊新潮」では落語家の立川談四楼さんによる「『喝を入れる』はなぜアウト? 新聞校閲の四方山(よもやま)話が楽しい」という見出しの書評が載りました。本にある「季下(正しくは李下=りか)に冠を正さず」の間違いから連想して落語では「直(じか)に冠をかぶらず」となると、「風呂敷」の一節を紹介。「直に冠をかぶると痛えだろ。だから冠をかぶる時にはガーゼかなんかを敷いて、それからかぶれという戒めなんだ」と、珍解釈が展開されています。

 そういえば「校閲至極」というタイトルも「恐悦至極」から来た一種のだじゃれです。ただ「校」の字は今でこそ「こう」の読みしか使われませんが、実は「きょう」もあるのです。期せずして由来の語と同じ読みにもなっていることに、タイトルの発案者は後で気づきました。思わぬところで語呂合わせができるのが日本語の楽しさですね。

 「校閲記者も迷う日本語表現」は17年に出てロングセラーとなっている「校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術」(毎日新聞出版)の「第2弾」という位置づけで刊行されました。「校閲記者の目」刊行後、「第2弾を」との声は出版側から何度も聞かれましたが、同書が校閲の仕事について網羅的にまとめられており、そのまま第2弾をつくるのでは、どうしても内容が薄くなったり単なる二番煎じになったりするように思われました。

 そこへ、サイト「毎日ことば」(現「毎日ことばplus」)の連載「ことばの質問」を本にしようというアイデアが出ました。

 校閲記者は、ことばに関わることを職業にしているという意味ではことばの「プロ」だとも言えますが、ことばに関する知識や感性において、必ずしも一般の人と比べて特別な素養があるわけではありません。現場の作業では、文章を直すか直さないか、直すならどう直すか、パッと答えを導き出せるわけではなく、ああでもないこうでもないと迷いながら仕事をしています。

 そうした迷いを質問にして回答してもらえば、それを根拠に迷いも減るのではないかという思惑もあって始めた「ことばの質問」でした。もちろん、回答してくれる方にも、答えを選んだり、解説を読んだりすることを通じて、ことばの使い方に関するヒントを得てもらえるならばという意図もありました。

 現に、「ことばに迷って検索すると『毎日ことばplus』にしょっちゅうぶち当たる」といった声を聞くようになりました。「毎日ことばplusは出版界ではバイブルだよ」といったありがたいことばもいただきます。

 校閲記者は「書く」ことが仕事ではありませんし、発信が得意とは言えませんが、この迷いに日々あがいていることを文章にして読者とやりとりして、本にして――そして、読んだ方のお役に立つならば、これほどうれしいことはありません。

(毎日新聞校閲センター)

 「校閲至極」「校閲記者も迷う日本語表現」はともに定価1,760円(税込み)