随筆集

2024年1月5日

コルベ神父と2人の日本人・長崎の被爆者と松前の桜守
――ロンドン在住の元外信部、阿部菜穂子さんが4月に英語本を出版

 ロンドン在住の阿部菜穂子さん(社会部・外信部OG)から年賀状が届いた。

 元日早々、能登半島の地震や羽田空港でのJAL 衝突事故など大きなニュースが英国でも盛んに報道されましたが、お元気で新年を迎えられましたでしょうか。

 私はおかげ様で元気にしております。

 今年4月18日に新著が出ます。出版社は前回の本『“Cherry” Ingram: The Englishman who Saved Japan’s Blossoms』と同じペンギンランドムハウスです。英語版が出た後、日本語に翻訳する予定です。

https://www.amazon.co.uk/Martyr-Red-Kimono-Sacrifice-Generation-ebook/dp/B0CBP8PCDD

 新著のタイトルは、「The Martyr and the Red Kimono: A Fearless Priest’s Sacrifice and A New Generation of Hope in Japan」、日本語で「殉教者と赤い着物」。

 阿部さんに解説してもらった。

 この本で展開するのは、1941年にアウシュヴィッツで殺害されたポーランド人のマクシミリアン・コルベ神父と、長崎の被爆者小崎登明さん(2021年に93歳で死去)、そして北海道の桜守浅利政俊さん(92歳)の3人の物語です。

 コルベ神父は1930年代に長崎に布教に来られ、6年間滞在して修道院を創設。ポーランド帰国後、反ナチスの姿勢がヒットラーの怒りを買ってアウシュヴィッツに送られ、そこで他の収容者の身代りとなって殺害されました。最後まで悪と闘い、世界平和と人類愛を唱えました。

 小崎さんは原爆で孤児となって生きる望みを失っていたところ、コルベ神父を知って立ち直り、原爆の語り部となって反核のメッセージを送り続けます。

 浅利さんは日本の戦争責任を重く受け止めて多くの「償いの桜」を創作。ある時コルベ神父のナチスとの闘いを知って深く感動し、420本の桜をポーランドへ贈ります。大戦を生き抜いたこの日本人2人は、神父の姿勢と思想に深く共鳴して平和を訴え、人間が生きる意味を問い続けたのです。

 3人の人生は見えない糸でつながれ、交差します。著者の追跡で、浅利さんの平和の桜は35年後、思わぬところで生き残っていることがわかりました。

 先の大戦と命がけで向き合った3人の壮絶なメッセージを伝えたいと思いました。

 阿部さんは、『チェリー・イングラム 日本の桜を救ったイギリス人』(岩波書店)で、2016年第64回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した。

 2019年『“Cherry” Ingram: The Englishman who Saved Japan’s Blossoms』を出版、現在計8言語で出版されている。

 桜守・浅利政俊さん(92歳)は、『チェリー・イングラム』でも紹介され、昨年5月5日北海道松前公園に設置された「日英平和友好親善の礎となる記念碑」の除幕式で、阿部菜穂子さんとともに、碑の除幕を行った。

浅利政俊さん(阿部菜穂子さん撮影)

(堤  哲)