2019年8月4日
江成常夫著『被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証』
元毎日新聞写真部員の写真家江成常夫さん(82歳)の写真集が、朝日新聞の8月3日付「読書」欄で紹介された。
——著者は長年ヒロシマ・ナガサキの被爆、戦地であった南太平洋の島々の撮影を通して、「日本人と戦争の関わり」を考えてきた。
今回は大判の写真集であり、被爆した建造物や物体を主に接近したカメラでとらえて、もちろん無言で私たちへと示している。
精細な写真は二次元でありながら、いやだからこそ今なお朽ち続ける「一瞬」を伝える。それは遺品のちぎれた日の丸、もはや顔がわからなかったという17歳の女子挺身(ていしん)隊員の衣服、火ぶくれの出た瓦、被爆校舎の内部などであり、私たちはそのひとつひとつの物体の前で長い時を過ごすだろうし、そうすべきだ。
中には被爆死した米兵や、中国人の遺品もあって、原爆投下が国際的な暴力であったことを明らかにするし、すべての被写体の背後にある経緯は著者の調べによって巻末に記され、それぞれの生が一度に等しく抹消されたことへの驚きと怒りと悔恨、核兵器廃絶への思いをかきたてる。
評者は、作家のいとうせいこう氏。
小学館刊、消費税込み4968円。
(堤 哲)