新刊紹介

2023年12月13日

元大阪本社編集局長、朝野富三さんが編著『昭和留魂録 戦犯1145名、4356日の処刑誌』

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 「戦犯」と聞けば、何を今さらと思う人も少なくないことだろう。もうすぐ戦後80年、さんざん語られてきた過去の話ではないのか。

 だが、ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナのガザ地区で何の罪もない市民や子どもが次々に死んでいくのを見るにつけ、「戦争犯罪」をどうして止められないのか、もし裁くとすれば誰が、どうやってなのかと思わない人はいないだろう。

 ICC(国際刑事裁判所)はある。捜査もしている。しかし、それら戦乱に直接、間接にかかわっているアメリカは署名のみで批准していないし、ロシアや中国にいたっては署名すらしていない。国連安保理の常任理事国5カ国のうち3カ国が非加盟なのだから国連が機能しないのは当然である。ちなみにICCはプーチン大統領に逮捕状を出したが、当人は痛くも痒くもないのだろう。

 そうした国々がかつて「正義」の名の下に裁いたのがBC級戦犯だった。12年間に処刑、獄死した人は実に1145名。本書の帯に「刑場の露と消えた方々の名簿を作成し、埋もれた記憶を蘇らせる。彼らの遺した声に耳を傾ける」とある通り、公的名簿さえない彼らの記憶を残したい一心で書いた。

 処刑された戦犯たちについて、いくら戦争だったとはいえ、それなりのことはしたのだろうと多くの日本人は思っている。あるいは、映画『私は貝になりたい』で描かれたような、運悪く戦犯になってしまった気の毒な戦争被害者像である。日本が間違った戦争をし、捕虜の虐待や処刑など、指弾されても仕方のない数多くの過ちを犯したことは事実だが、それは国家や軍の責任であり、個々の将兵の責任だろうか。

 「私が戦犯者として処刑せられます原因は勿論個人的の性質を帯びたるものではありません。戦争というものに勝たんが為、身を国に献じた帝国軍人として上司の命に服した事が又部下に命令を下した事が惨めな敗戦の結果、戦争犯罪法なる戦勝国の為に作られたる法律に触れ、戦争犯罪者という名を附せられた迄の事です」(海軍主計大尉、28歳)

 「国民斉しく此の身代りとして喜んで散っていった勇士の霊を抱き遺志を継ぎ、国家の為此の尊き犠牲者の為個人の生活を犠牲にしても祖国の再建に邁進しなくてはなりません。(略)終戦まさに二年にもならんとする今日に於いて、今なお戦の犠牲となり痛恨の涙をのみ、ただ一筋に聖寿の万歳と祖国の再建のみを祈り従容として死につく姿を永久に忘るべきではありません」(陸軍中尉、28歳)

 「ふるさとの林檎畑のつぶら実にかへす日光をいま思ひつつ(林檎の差入れありて)/ひとすじに平和を祈りつつ円寂の地へいましゆくなり」(海軍少尉、28歳)

 戦犯裁判の是非をめぐってはいろいろな考え方があるだろうが、彼らの死は日本国民が本来等しく負わなければならなかった敗戦の代償の「身代わり」「肩代わり」だったと考える。彼らは世界の平和を願い、その礎になるんだという思いで潔く死地に赴いていった。その願いとは裏腹に戦火が絶えないでいる今、彼らの遺した言葉に耳を傾けてもいいのかもしれない。

(朝野 富三)

朝野富三編著『昭和留魂録 戦犯1145名、4356日の処刑誌』は展転社刊、税込み2,420円
朝野富三さんは1970年入社、大阪社会部長、同編集局長、東京・事業本部長など、現在はジャーナリスト。