2024年3月22日
毎日新聞客員編集委員の科学ジャーナリスト、青野由利さんが『脳を開けても心はなかったー正統派科学者が意識研究に走るわけー』を刊行
記者には2タイプある、と思っていた。自分が書いた記事を真っ先に読み、人にも「ぜひ読んで!」と勧められる人と、手放した原稿を見るのが嫌で、黙っていたいタイプ(ちょっと極端な見方ですが)。
私は一貫して後者で、それは書籍の出版でも変わらない。「とんでもない間違いを書いてしまったのでは?」と思うと、心が落ち着かないのが常だった。
だが、フリーランスとなった今、そんな甘っちょろいことを言っていてはいけない、と思い、今回はお誘いに応じて新著を紹介させていただくことにした。
本書は「脳と心」の問題に焦点を当てているが、心や意識の科学的解説をめざしているわけではない。「脳を研究しても心はわからない」と主張しているわけでもない。
隠されたテーマは(いや、隠しているわけではありませんが)、功成り名遂げてノーベル賞まで受賞した「正統派科学者」たちが、なぜある時からちょっと怪しげな「意識」や「心」の研究にのめり込むようになるのか、という謎の追求だ。
DNAの二重らせん構造の発見で知られるフランシス・クリック、大脳生理学の大家ジョン・エックルス、ホーキングの共同研究者で2020年にノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズなど、元の専門を超えて自論を展開するようになった人々は思いのほか多い。「脳と心は別モノ」と主張する科学者もめずらしくない。
一方で、近年のAIの台頭が「コンピュータ(機械)も意識や心を持つか」という古くからのテーマに、新たな光を当てるようになった。
自分が対話していたAIに意識が生まれたと主張し、結果的にグーグルを解雇された技術者もいる。スタンリー・キューブリックとアーサー・C・クラークによる「2001年宇宙の旅」に登場するコンピュータ「HAL」も改めてクローズアップされている。
「なんだか小難しい話」と思うかもしれないが、科学者も哲学者も難しい人たちではない。ちょっと浮世離れした天才・奇才たちのこだわりや奮闘ぶりをお楽しみいただければと思う。
(青野 由利)
『脳を開けても心はなかったー正統派科学者が意識研究に走るわけー』は築地書館刊、2,640円(税込み)。2024年3月9日の毎日新聞「今週の本棚」に池澤夏樹さんの書評が掲載されています。
https://mainichi.jp/articles/20240309/ddm/015/070/026000c
文藝春秋4月号 BUNSHUN BOOK CLUBにも竹内薫さんが書評を書いています。
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h7822