随筆集

2016年7月22日

「昭和群像」の花森安治氏

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(41年前の夕刊連載コラム)写真は花森安治氏

 ちょっと長いが、連載記事の書き出しを紹介する。

 ―暮らしの手帖社社長の大橋鎮子さんを十数年ぶりにたずねたら、開口一番「あれからちっとも変わってないんですよ。私がただ年をとっただけ」というあいさつ。十余年前、大橋さんをたずねたのは、雑誌「暮らしの手帖」の創刊を中心に、彼女の奮闘ぶりを取材するためだった。だから大橋さんの「あれからちっとも」の中には、同誌創刊の(昭和)二十三年九月以来、の意味もこめられていた。

 二十三年以来、現在まで、日本人の暮らしはずいぶん変わった。それなのに、暮らしを主題とする「暮らしの手帖」はなぜ変わらないのか。いや、何が変わらないのか。

 答えを先に書いておこう。同誌創刊以来の編集長・花森安治氏の信条が、である―

 今から41年前、戦後30年企画として、1975(昭和50)年の正月から毎日新聞夕刊3面で連載された「昭和群像」。反戦平和を訴え、日中文化交流を進めた中島健蔵氏に続く2人目が、花森安治氏(1911~78)だった。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」で唐沢寿明演ずる花山伊佐治である。1936(昭和11)年東大文学部美学科卒。大学時代、軍事教練を拒否して陸軍二等兵から上等兵まで辛酸の限りを経験する、とある。その信条は、縮刷版にあたって連載を読んでもらうとして、最終5回にこうある。

「いまの時代がね、心配で心配で、なにかまた(いやな時代が)きたなみたいな感じがね」

「君が願うところの……ささやかなマイホーム的幸せを手に入れるためには、たぶんその何倍かの〈いささかの勇気〉がなければだめなのだ」

 筆者は社会部編集委員の浅野弘次氏(86年没、61歳)。若い部員から人気のあった知性派記者だった。(堤 哲)