随筆集

2018年1月9日

西郷隆盛はパーマをかけていた――。  話題沸騰!仁科邦男さんの西郷本

 NHKの大河ドラマ「西郷(せご)どん」が始まった。冒頭は、上野公園の西郷隆盛像除幕式(明治31年12月18日)で、西郷の妻イトが「こげな人じゃなかった」と訴えるシーン。

 仁科邦男(69歳)著『西郷隆盛はなぜ犬を連れているのか: 西郷どん愛犬史』(草思社)には、イトの言葉が〈「顔が似ていない」という意味なのか、「こんな格好で人前に出るような人ではない」という意味なのか、解釈が分かれる〉とある。

 西郷はおしゃれだった。細い青竹を火鉢の灰の中に差し込み、髪にあててパーマをかけていた。「戎服(じゅうふく)(軍服)を着ればそれ相応に頭髪も手入れせんければならん。頭髪の鏝(こて)じゃよ」と、この青竹の使い途を説明した。

 パーマの話は、鹿児島出身で社会部の先輩・小畑和彦さん(2012年没、67歳)からB1で飲んでいるときに出た話だという。

 のちに「西南戦争」と呼ばれる、その出陣の際は、陸軍大将の正装をして、舶来の葉巻をくゆらせていた。

 上野公園の銅像についても解説している。〈西郷が犬を連れて兎狩りに行く姿である。左の腰に下げているのは兎の通り道に仕掛ける兎わなである。実際にはこのような着流し姿では狩りに行かなかった。西郷像はわらじ履きに素足である。狩りに行く時、西郷は狩猟用の足袋を履く。素足、むきだしの足の脛(すね)では、すり傷だらけになってしまう。

 西郷像は散歩しているように見える。犬に首綱をつけ、散歩する習慣は文明開化とともに日本に入って来た。ここには新しい時代の日常がある。狩り姿と普段着の西郷が混然となっている。……

 犬は小さい。西郷像の高さは1丈2尺(約360センチ)で、実物(身長180センチ)の倍あるが、それをもとに計算すると犬の体高は31-32㌢前後。柴犬よりも小さく、ダックスフンドよりは大きい。これでもモデルになった薩摩犬より大きく作った。モデルの犬は西郷が飼っていた犬ではない。薩摩出身の海軍中将・仁礼景範(にれ・かげのり)が飼っていた桜島産の犬で、サワという名のオス犬である〉

 とにかく詳しい。よく調べている。司馬遼太郎の『翔ぶが如く』にはしばしば犬の話が出てくるが、「愛犬と祇園の茶席に上がる」という一文には誤りがある、とズバリ指摘する。元社会部記者の面目躍如である。

 1月7日付け朝日新聞書評欄で、早速話題の書として取り上げられた。とりわけ〈巻末の『西郷隆盛と犬』の略年表」は圧巻だ〉とベタ褒めである。「犬2匹を連れ兎狩り」「犬13匹を引き連れ鰻温泉に止宿」など、犬好き西郷を史料から丹念に拾った。

 年表に、坂本龍馬とお龍夫妻が慶応2(1866)年3月10日に鹿児島に着き、10日から4月11日まで日当山などの温泉をめぐった、新婚旅行の始まり?もあった。

 著者略歴に「名もない犬たちが日本人の生活にどのように関わり、その生態がどのように変化してきたか、文献史料をもとに研究を続ける」とある。動物文学会会員。

 絶滅したといわれる薩摩犬を追って、毎日新聞西部本社報道部にいた筆者が鹿児島の離島・甑島に渡ったのは、1978(昭和53)年2月。ちょうど40年前である。そのころから「いつか西郷隆盛を書きたい」と資料収集、取材を続けてきた。

 この本は、「犬の伊勢参り」(平凡社新書)、「犬たちの明治維新 ポチの誕生」(草思社)、「伊勢屋稲荷に犬の糞 江戸の町は犬だらけ」(草思社)に続く、仁科邦男犬シリーズの第4弾である。

 1月5日には、NHK歴史秘話ヒストリア「西郷どんのイロハ 維新の英雄・3つの愛」に出演して、西郷隆盛の「忠犬への愛」についてコメントを述べた。再放送は1月14日午前0時05分から(13日深夜)。見逃した方は是非見てください。

(堤  哲)