随筆集

2018年10月12日

記者という仕事

 ――記者という仕事は、法的に許された大人の最高の楽しみだと思いませんか。一日の半分は世界について学び、人に話を聞き、物事を理解するために使う。残りの半分でそれを伝える努力をする。地方紙で仕事を始めて半年ではまりました。

 これは、今朝の朝日新聞(10月12日朝刊)に載った「新聞と民主主義の未来」特集で、「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)紙の発行人、アーサー・グレッグ・サルツバーガーさん(38歳)が語った言葉てす。発行人に就いたのはことし1月。

 「ニューヨーク・タイムズ」紙は1851年創刊だが、1896年、米国南部テネシー州の地方紙を経営していた元植字工のアドルフ・オークスによって買収された。

 現発行人の高祖父で、この一族がそれ以来、発行人を出している、と記事にある。

 見出しを拾うと――。

 トランプ氏に直言 耳を傾けたようにも見えたが
 有料読者300万人視野 いずれデジタルだけに
 地方紙の衰退 この時代の最大の危機の一つ

 そして本人の紹介に――
 代々発行人 デジタル優先の先駆け

 どこかで全文を読んでください。示唆に富んだ内容です。

 ――就任のあいさつで「危険な力が合わさり、報道の中心的役割を脅かしている」との危機感を示しました。「危険な力」とはどういう意味ですか。

 「報道の自由の存亡に関わる三つの大きな力が存在していると思います。一つはビジネスモデルの変化です。紙媒体からデジタルへということですが、裏にあるのは広告収入に支えられるビジネスモデルが揺らいでいることです。二つ目は信頼の低下。科学から大学、司法機関までさまざまな制度への信頼が揺らいでいますが、ジャーナリズムには特に顕著です。三つ目はフェイスブックやグーグルなど巨大なプラットフォームが登場し、報道機関と読者の間に介在するようになったことです」

 ――そうした大きな変化のなかで、NYTは有料のデジタル購読が好調です。

 「我々のような伝統的メディアは大きな変革のときを迎えています。重要なことは、いずれデジタルだけの報道機関になるときが来る、という事実を受け止めなければならないということです。すぐにそのときが来るのか、まだ先かと聞かれれば、まだ先だと思います。紙で新聞を読むために多くのお金を払っている熱心な読者が100万人いるのですから。ただ、ずっとそうだというわけではないのです。私たちはデジタル優先のメディアにならなければならないということを受け入れました」

 「デジタルは急速に伸びており、300万人近いデジタルだけの有料読者がいます。デジタルの広告収入は規模が小さく、野心的なジャーナリズムを支えることは出来ません。購読者からの収益を支えとするビジネスモデルに変えることで、この会社で働く全員がジャーナリズムの使命のもと一丸となりました。読者は中身の濃い報道にお金を払い、そのお金で私たちは使命を果たすことができるという良い循環を生みだすことができます」

 ――NYTはデジタル展開をする新聞社なのか、新聞も出すデジタルメディアなのか。どちらだと思いますか。

 「すでに後者になったのだと思います。我々の取り組んだ重要な成果はまずデジタルで発表され、追って新聞でも掲載されます。オンラインの音声番組であるポッドキャストやVR(仮想現実)、動きのあるグラフィックなどに力を入れていますが、これらは紙媒体では展開できません」

 そして最後に

 ――今年、発行人に就任した直後に育休を取りましたね。

 「その質問をしたのは、あなたが初めてです。育児がいかに大変なことかを学び、すばらしい体験でした。また、就任1年目で私が実際に取得したことで、実際の人生で本当に活用してよい制度だというメッセージを与えたと言われたのはうれしい驚きでした」

(堤  哲)