随筆集

2019年11月15日

メディアウオッチを続ける85歳・天野勝文さん

 「メディアウオッチ100」2019年11月13日第1243号に、「自治体で対応分かれた台風犠牲者の氏名公表」天野勝文とある。

 この「メディアウオッチ100」は、「最近の新聞、テレビは中身がないし、ちっとも面白くない」という世論を受けて、新聞記者OBを中心とした報道・執筆のプロたち100人以上が、あらゆるメディアをチェック・分析・評価するニュージャーナリズムを立ち上げたのだ。創刊は2011(平成23)年2月。

 毎日新聞OBで元筑波大・日大教授の天野勝文さん(85歳)は創刊からの常連執筆者。すでに優に「1千本安打」を達成している。

 手元にあるニュースチェックを紹介する。ちょっと古いが、2018年12月26日第1121号——。

 「惜別」「追悼抄」「悼む」を読み比べると

 年の瀬になると、ひときわ気になるのが追悼記事である。土曜日から月曜日にかけて、朝日、読売、毎日の各紙に「惜別」「追悼録」「悼む」などのタイトルで、「月月遅れ」の追悼記事が載る。(中略)

 ① 朝日と読売は自社の記者が執筆している
 ② 毎日は社外執筆者が多い
 ③ 読売は大きなスペースを割いている

 個々の記事・寄稿の「評価」は脇に置くとして、やはり死者とゆかりのある記者が書いたものが「新聞らしい」のではないか。その点では毎日は人材に乏しい感を免れない。読売は冗長すぎる。総じて言えば、朝日に軍配が上がる(「大甘だぞ」と河谷史夫さんに叱られそうだが)。

画像
リクルート広告の魁「東大新聞」1958年6月18日号

 天野さんと新聞の付き合いは古い。学生時代「東大新聞」の記者だった。履歴をみると、1957(昭和32)年東大文学部社会学科卒、59(昭和34)年4月毎日新聞東京本社入社。

 この2年間、経営破綻した学生サークル「東京大学学生新聞会」が「財団法人・東京大学新聞社」として新発足し、専従職員を任されている。

 リクルート創業者である江副浩正氏は、在学中に「東大新聞」で広告営業を始めたが、企業の就職情報の始めは、58(昭和33)年6月18日号に載った丸紅飯田株式会社の就職説明会広告だった。

 江副氏は東大4年生。江副氏の自伝『かもめが翔んだ日』には、天野さんから「新聞は販売収入より広告収入が上回る時代になった。広告もニュースだ。明日から新聞を広告から読んで、東大新聞の広告を開拓してくれないか」といわれたと、書かれている。

 「新聞は下から読め」「広告もニュースだ」。天野さんがいなければ、「江副リクルート」は存在しなかった?

 天野さんは、1986(昭和61)年筑波大学助教授(ジャーナリズム担当)に就任する。52歳の誕生日前である。

 青木彰氏(2003年没、77歳)のあとを継いだ。教え子に朝日・毎日・読売をはじめ新聞各社の記者がたくさんいる。

 人格円満、後輩の面倒見もバツグンで、この人の悪口を聞いたことがない。

 日本の新聞・テレビ・メディアチェックをいつまでも続けてもらいたい、と思う。

 『ジャーナリズムの情理 : 新聞人・青木彰の遺産』(2005年刊)
 『新現場からみた新聞学』(2008年刊)
 『新現代マスコミ論のポイント』(2004年刊)など著書・論文多数。

(堤  哲)