随筆集

2020年2月28日

警視庁5方面記者クラブのお宝がマンガミュージアム入り

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 お宝は、漫画家手塚治虫さん(1989年没、60歳)がトキワ荘の天井板に描いた直筆画である。タテ90センチ、横30センチ。

 「リボンの騎士」の主人公サファイアと、汗をかきながら漫画を描く手塚さんの自画像。

 五方面記者クラブのみなさんへ
 1982年12月1日

とサインペンで書かれている。

 天井板は、かつて豊島区南長崎3丁目にあった木造アパート「トキワ荘」のものだ。手塚さんをはじめ、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄さんら売り出し前の若手漫画家が10室あった2階4畳半に住んでいた。

 手塚さんの自画像を見てください。ツギの当たったセーターを着て、裸電球のもとペンを走らせている。

 築30年。「トキワ荘」は、老朽化で取り壊された。その解体作業に、火事の取材現場から帰る途中の5方面記者クラブ(池袋警察署)の社会部記者が出くわした。

 「これは大ニュースだ」

 記者たちは、トキワ荘に住んでいた漫画家に電話取材をした。すると、当時54歳の手塚さんが「記念に天井板が欲しい」といって、翌日解体現場にやってきた。

 《自室だった2階の部屋の天井板を何枚か外すと、1人の記者が「記念に何か……」とペンを渡した。すると、手塚さんはすらすらとサファイアを描き、「僕も描こう」と自画像も添えた》

 《宛名を書く際、手塚さんは「方面クラブって何ですか」と尋ね、記者たちは「若手記者が切磋琢磨する場所です」と説明。すると手塚さんは「トキワ荘みたいなものだね」と話し、ニコッとしたという》=読売新聞2月27日夕刊。

 方面クラブは、サツ回り記者たちのたまり場である。23区内は7方面に分かれ、1方面丸の内、2方面大崎、3方面渋谷、4方面新宿、5方面池袋、6方面上野、7方面本所各警察署にあった。

 ゴミの5方面と呼ばれた。管内で事件・事故が起きても、都心や渋谷・新宿と比べ紙面扱いが小さいのだ。

 天井板は池袋署記者クラブのお宝だったが、タバコの煙で汚れがひどくなり、30年ほど前に5方面の歴代担当者がカンパして、お宝を洗浄、額に収めた。その幹事役が毎日新聞の現オリンピック・パラリンピック室長・山本修司さん(57歳)=前西部本社編集局長=だったという。

 そして10年前に、5方面クラブ詰めの記者が減ったことから、このお宝は、お隣4方面の新宿警察署の記者クラブに預けられていた。

 豊島区が「トキワ荘」近くに復元した「マンガの聖地豊島ミュージアム」(豊島区南長崎3-9−22区立南長崎花咲公園内、最寄駅は西武池袋線椎名町駅)が3月22日(日)にオープンすることとなり、このお宝の寄贈式が警視庁本庁で行われたのだ。当時5方面クラブを担当していた各新聞社の記者たちも出席して。高野之夫区長は「手塚先生の思いがこもった貴重な作品。施設に魂を吹き込んでいただいた」と謝辞を述べた。

 なお、開館はコロナウイルス感染の拡大の影響で、4月1日以降に延期された。

(堤  哲)