随筆集

2020年5月14日

尾崎美千生さんの市長選敗戦の記

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 コロナstay homeで断捨離中に、尾崎美千生さん(2019年12月25日逝去、82歳)の自戦記「われ敗れたり」が出てきた。このHPで入社同期の原剛さんの追悼録に2003年1月の千葉県八千代市長選に立候補したことが綴られているが、次点で落選した記録である。

 A4判8ページに及ぶ。併せて東京新聞の記事が添付されてあった。

  「知名度なし」1万2363票の次点
  「街変える」意義ある敗北

 告示8日前の1月11日八千代市民会館で開かれた「尾崎決起集会」。元国連事務次長・明石康、TBSの宇宙飛行士・秋山豊寛、毎日新聞OBの岸井成格、重村智計らの《豪華キャストに定員500の市民会館に650人が詰めかけた、歴史的イベント》だった。

 社会部OBの原剛さんは司会役。《諸岡達一をリーダーとする毎日新聞「大東京竹橋野球団」の応援歌が、いつの間にか「尾崎応援歌」となり、会場に彩を添えた》

 毎日新聞の草野球チーム「大東京竹橋野球団」S・ライターズの応援歌は、尾崎さんが作詞、同じ政治部の井上義久が作曲した。

 会の最後に地元八千代市在住の「不動の一塁手」原田三朗をはじめ団員が舞台に上がり、諸岡達一の「さあ!ガンバッテコーッ!」の音頭で応援歌を、がなったのである。

 手書きの楽譜とともに、「ドンマイ節」誕生余話が『野球博覧Baseball Tencyclopedia』(2014年刊)に残っている。

  イクゼ!オー! イクゼ!オー! イクゼ!オー!
  三角ベースで育った我ら 川上青田に藤村大下
  長嶋ワンちゃん落合清原 そんなバッターはいやしない
  打てば三振ピーゴロざらよ バットバットバット
  我ら実年野球団 どんと行こうぜどんとね(ソレ!)
  ドンマイ ドンマイ ドンマイ ドンマイ(ガンバッテコーッ!)

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大東京竹橋野球団の集まり(2011年12月) 後列右から3番目が尾崎さん

 《三角ベースで味方が大物を打たれたり、エラーをしても「ドンマイ!ドンマイ!」と進駐軍お下がりの英語でカラ元気を出す鷹揚さが少年たちの得意技だった。かくして往時の少年たちの夢を思い出すことで、応援歌の歌詞は大方出来た》

 《毎日新聞政治部旧友会の声援は語り草になろう》として応援団の名前を列挙している。

 小林幸三郎(RKB毎日元社長)小池唯夫(毎日新聞元社長)斎藤明(同)細島泉(編集局長、元取締役)三宅久之(評論家)広瀬次雄(アジア人口・開発協会事務局長)、安藤哲、金巖(秋田県象潟町長)馬弓良彦(元取締役)、岩見隆夫(評論家)池浦泰宏(日本外交協会理事長)、中田章(元取締役)、鈴木恒夫(元文科相、衆議院議員)西山猛ら。

 《三宅、岩見、鈴木の鍛えられただみ声がビルの谷間や団地の壁にこだました》

 その敗因を冷静に分析している。

 市長選は、前市長の贈収賄事件・逮捕に伴う「世直し選挙」だったが、勝手連に推され「党派を超えた市民派の結集」を訴えた尾崎候補は、残念ながら《知名度がゼロに近かった》。そのうえ前年暮れにバンコクで開かれた第5回アジア太平洋人口会議に政府代表顧問として出席したうえ、勤務していたJICA(国際協力事業団)の辞表受理が告示直前の1月9日だったことから、《800メートル競走に半周遅れ》のハンディキャップとなった。

 元政治部長で象潟町長を3期務めた金巖さん(2019年没、85歳)が落選後に励ましの手紙を出している。

 《尾崎さんの挑戦は決して蟷螂の斧ではありません。地方政治実現のために捨て身の人間が現れたという道標です。

 いま、日本の政界は試練の時に直面しています。国政に携わる政治家の多くは国の針路など念頭になく、カネと利権漁りに汲々としているのが現状です。

 残念なことに、地方治自体の首長にもカネに毒された政治家気取りのものたちが多数います。嘆かわしいことです。この風土を一掃しない限り、本当の地方分権は実現できません》

 尾崎さんは最後をこう結んでいる。

 《世界のあり方が、人類の生き方が根本から問われている千年単位の変化の時代に、いまこそ日本人の生き方と、足元から日本の政治を考えてみたい。そのことに残された今後の自分をかけてみようと思う》

(堤  哲)