随筆集

2021年9月9日

「あなたはケチですね」宇野千代さんに叱られた吉永小百合さん

 「恋多き女」宇野千代さん(1996年没98歳)の名前に、立て続けに接した。この毎友会HP追悼録の中西浩さん(7月28日没90歳)と、5日付毎日新聞「滝野隆浩の掃苔記」。

 追悼録では、中西浩さんが宇野千代さんを撮影したときのウラ話を写真部の後輩・滝雄一さんが明かした。

 《毎日新聞日曜版で「生きて行く私」を連載し、単行本でもベストセラーになった宇野千代さん。彼女の老眼鏡はかなりきつい凸レンズで撮影の角度で目の大きさ、形が歪んで醜悪に見えてしまう。そこで、中西さんは眼鏡屋へ行って、レンズを外してもらって彼女を撮影した。とにかく撮影では妥協しないのだ》

 社会部旧友・専門編集委員の滝野隆浩さんは、お墓めぐりで。《高さ1・2㍍、幅1㍍ほどの白っぽい石。上部には丸みがある。「幸福は 幸福を 呼ぶ」と彫られ、その周りに好きだったサクラの花びらが散ったデザイン。心のおもむくままに愛し、書き続けた作家の、生き方そのままである》

 《尾崎士郎、萩原朔太郎、梶井基次郎、東郷青児、北原武夫らとの波乱に満ちた恋愛遍歴である。毎日新聞に連載された代表作「生きて行く私」には愛の浮沈が描かれた。読むと、なぜか晴れやかな気持ちになる。たぶんそれは、相手に執着しないから。彼の心が離れたら、追いかけない。晩年、NHKのインタビュー番組で宇野さんは「それが恋愛の武士道」と語っていた》

 《あ、この人いい、と感じたら、迷わず真っすぐ一直線。後悔など一切しない。だから墓石の言葉は、宇野さんの幸福論でもある。幸不幸は「本人の気の持ち方次第」と随筆に書いた。「私が一番嫌いなのは、そう大して不幸でもないのに、自分をよっぽど不幸だと思わないと安心出来ないような人である」(「幸福を知る才能」)》

 思い出したのは、映画「女ざかり」に合わせて主演の吉永小百合さんが毎日新聞に連載した「女ざかり 男ざかり」の第1回。

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 見出しは——。
  「あなたはケチですね」
  宇野先生に叱られた私

 《4回の結婚をなさって、どんな時でも惜しみなく愛のある行動をとられた先生の生き方は、とても真似できない。

 
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池上彰さんと対談する吉永小百合さん(毎日新聞紙面から)

 「相手の男性が私に好意を持ってくれていることが判らなければ、自分からその男性に対して積極的になれないのですよ」と申し上げたら、「あなたはケチですね」と、叱られた》

 原稿のキャッチャー役を私(堤)が担当したからだが、この第1回は印象的だった。

(堤  哲)