随筆集

2022年6月1日

福島清さんの「活版工時代あれこれ」②養成員教育から活版へ

 入社式翌日の1957年4月2日から3期にわたる「養成員教育」が始まりました。

【昭和32年度技能者養成教育実施計画】
◆第1期(4月1日~4月30日)

①本社職員として必要な教養知識を培養する②印刷全般の基礎知識を修得させる③各種作業の基本教育及実習により印刷工場の輪郭を把握させる。

 第1期は以上の目的に沿って、午前中は「教養講座」午後は印刷局各部の紹介を兼ねた「実習」でした。

「教養講座」のテーマと講師は以下の通り。
新聞について        印刷局長 三宅 俊夫
新聞工場の施設について   同次長 長谷川勝三郎
新聞工場の作業について   同次長  小野  勝
本社の沿革と組織機構    人事部長 名取壌之助
本社の編集方針と通信機構  編集局次長 石井貞二
本社の営業について     経理部長 梶山  仁
出版刊行物について    出版局次長 千歳 雄吉
養成員制度と任務      管理部長 池田 克穂
活版の任務         活版部長 増田  弘
写真製版の任務     写真製版部長 竹下 嘉吉
活版について      活版部副部長 古川  恒
印刷・紙型について      紙型課 上坂 幸雄
印刷・鉛板について      鉛板課 後藤 賢司
印刷・輪転について      輪転課 林   秀
写真製版について  写真製版部副部長 吉村 茂三
本社の諸規定について  管理部副部長 杉本 恢憲
安全衛生について    管理部副部長 杉本 恢憲
輪転印刷について    管理部副参事 大西 末次
インキと用紙について  同      田口  大
結核と予防について      診療所 進藤 博士

 第1期中の4月23日は、金曜社、インキ会社、十条製紙の工場見学でした。印刷関係の担当者にはまじめに教育しようという意気込みがありましたが、印刷以外のある幹部は、頼まれたから仕方なくやっている感じで、適当なことを言って、あとはバカ話で終わりでした。講師のみなさんはとっくに鬼籍に入っていますが、管理部副部長の杉本恢憲さんは、教育全体の責任者でおっかない人だったことを覚えています。

◆第2期(5月1日~7月31日)
①仮配属部の各課作業全般にわたる知識を習得させる②各課作業の完全な技能習得③作業環境、工場の気風に順応させる④各課作業が新聞製作上もつ意義と責任を認識させる。

◆第3期(8月1日~12月31日)
①仮配属部課の担当業務に習熟させる②基本教育及実習の補足を行う③仮配属部課の業態と作業規律及気風に十分順応させる。

 1年間の研修終了後、提出させられた研修報告ノートが残っています。最初に三宅俊夫・印刷局長の「新聞について」の講義があります。

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 太平洋戦争を契機に日本は民主主義国家になった。その民主主義の根本は即ち真実を知ることである。国民が何も知らずに政治が行われた時に、それ、は独裁政治となり、戦前の日本が歩んだ道を再びくり返すことになるだろう。真実を知るためには言論の自由がなければならない。この言論の自由を守るものが新聞である。ここに新聞の近代民主主義国家に対する重大な意義がある。

 新聞は国民を或いは、社会を指導するものではない。各社夫々の新聞社の方針に則り、国民に示唆し、道標となるべきものである。仮に新聞に指導性を持たせたならば、その社の中心の人の主観によって左右何れか、又は単なる娯楽新聞になってしまうであろう。又新聞には権威がなければならない。そしてその権威は常に経営の安定した上に立って初めて万人の認めるその社の権威が生まれるのである。

 読み返してみて、いいこと言ってます。研修報告は、続いて「本社の沿革」「編集局の組織」「毎日新聞編集根本方針」「本社の営業について」「養成員制度について」などをまとめています。次に印刷関係です。「活版について」は、「近代印刷の祖」とされた1400年生のグーテンベルグが活字による印刷方針を確立するまでに始まり、母型、活字の基礎からモノタイプまで。続いて「印刷について」「写真製版について」「電気・ボイラーについて」をまとめています。

 第2期の仮配属は印刷部で、第3期の仮配属は活版部でした。養成員教育修了後の1958年4月から正式に「活版部配属」となり、本給が450円上がって6600円となりました。

(福島 清・つづく)