2022年7月25日
森浩一・元社会部長の「東京社会部と私:記憶の底から(9)」
有楽町旧社屋の思い出を少々
1966年9月、東京本社新社屋が竹橋に完成、有楽町の社屋から移転した。皇居のお堀際に建ったパレスサイドビルは眩しい美しさで、ビルの東西に立つ円形の塔は何だろうと思った。
ここで黙って有楽町の貫禄あるビルを去るわけにはいかない。
旧社屋。編集局は4階だったと思う(老いた頭の中は、有楽町の社屋構造と竹橋に移ってからのそれがごちゃごちゃになって現れるので始末が悪い)。社会部は富士アイスなどが見える窓側ではなく編集局に入っていって右側ではなかったか。机の表面にインキのシミや煙草の焼け跡。木製の鉛筆立てが並ぶ机の随所に置かれ、3Bの鉛筆が立っていた。4Bもあったような記憶がある。鉛筆は黒塗りで「毎日新聞」の金色の文字が入っていた。1辺が軽く糊付けされた矩形のザラ紙の雑用紙がこれも随所に積んであった。その1枚に当時の新聞の1行15字分が収まるぐらいの目安で、大きな字で原稿を書いた。時には青色のカーボン紙がを挟んであった。「青」は西三本社送り用に連絡部に渡った。鉛筆を削ったりカーボン紙を挟んだりするのはアルバイト学生。用事があると「おーい、ぼうや!」。
デスクの机には浅い木箱に朱色のスミ壺と筆が2、3本入っていた。デスクが原稿を直したり削ったりするのを「赤を入れる」といった。これは間もなくボールペンに変わった。
部長席の後ろの小部屋に桜木谷範秀さんがいて、給料の受け渡し、出張旅費や取材費の精算に携わっていた。給料の一部前借りの相談に乗ってもらう人もいた(桜木谷さんのあとは、新社屋になって内藤寅一さん)。
昼夜仕事の編集局。有楽町の社屋は、夏は暑く、天井に羽の長い大きな扇風機がゆっくりと回り、盛夏には社会部の机にも四角の大きな氷柱が立った。
鳩よ さようなら
宿直室は5階だったか、朝、外のコンクリート製の、いくつも蛇口が並ぶ洗面所で顔を洗っていると、鳩舎から遊びに出た鳩と顔を合わせることがあった。連絡部の鳩係が100羽を超える鳩の面倒を見ていた。社屋移転のとき、鳩係は廃止となり、鳩たちはあちこちにもらわれていったようだ。ときどき有楽町に舞い戻ってくる鳩もいたという。
忙中閑あり 社会部が社内野球で優勝!
会社の厚生部は春秋の年2回、社内野球を開催した。と言っても早朝野球である。どの部局と当たるかは抽選ではなかったか。私が社会部に来た頃は会社のグラウンドが巣鴨の駅近くにあって、そこで試合が行われた記憶がある。警視庁七社会にいたほぼ5年間のうちに試合会場は神宮外苑軟式野球場に変わっていた。
新社屋に移った後の1969(昭和44)年秋、われらが社会部チームは第48回社内野球Bで優勝した。社報に『個人表彰で最高殊勲選手大島幸夫(投手)優秀選手賞野口元(三塁手)』と載っている。捕手はたいてい田中正延君で、時に根上磐君。この大会ですごいことがあった。準決勝で勝又啓二郎君が満塁ホームランを打ち、決勝戦でまたまた満塁ホームラン。まさに奇跡というほかない。野球通の堤哲君によれば、監督が中村侔さん、主将は森、優勝旗は田中浩さんが受け取ったという。絶対に塁を離れない不動の1塁手原田三朗君、出ればのらりくらりの投手土屋省三さん。出場選手みなさんの名前を挙げていきたいところだが、優秀なプレイヤーでも仕事があれば出られない。臨機応変。かわるがわるのチーム編成であった。
優勝チームはその日、夕刊の仕事が始まったばかりの編集局に優勝旗を先頭に入っていきナニゴトカと驚かれるやら拍手を受けるやら。社内野球のとき、ベンチ兼簡易スタンドには常連の堀井淳夫さん、岩崎繁夫さんや米山貢司さんたち。非番のデスクも応援に現れることもあった。
(社会部OB 森 浩一)
≪社内野球優勝記念写真≫(敬称略)
1969(昭和44)年秋、社会部はBクラスで優勝した。その表彰式の写真を当時監督の中村侔(92歳)が保管していた。
記念写真に写っているのは、前列左からMVPの投手・大島幸夫(当時32歳)=5方面(池袋警察署)サツ回り▽勝又啓二郎(29歳)=7方面(本所警察署)▽優秀選手賞の三塁手・野口元(31歳、93年没55歳)=遊軍▽キャプテン森浩一(34歳)=元社会部長、スポニチ社長▽社会部長・谷畑良三(43歳、00年没73歳)▽監督・中村侔(39歳)=東京東支局デスク▽原田三朗(34歳、2018年没82歳)=元論説委員▽堤哲(27歳)=3方面(渋谷警察署)▽松尾康二(32歳)=元カルビー会長▽その隣の優勝旗・田中浩(38歳、2022年没91歳))=元毎日映画社社長▽そのうしろ・荒井義行(32歳)=74W杯(西独)から現地取材しているサッカー記者。
中腰の中列▽澤畠毅(30歳、2021年没81歳)=警視庁担当、▽滝本道生(28歳、04年没62歳)=2方面(大崎警察署)▽土屋省三(43歳、09年没81歳)=武蔵野駐在▽横山裕道(25)=八王子支局▽根上磐(34歳、2015年没80歳)=警視庁捜査一課担当、
後列▽河合武(43歳、99年没63歳)=科学記者▽筆頭デスク・桜川三郎(48歳、86年没64歳)▽岩崎繁夫(43歳、03年没76歳)=東京東支局長▽竹内善昭(40歳)=元社会部長▽吉川泰雄(30歳)=東京西支局▽米山貢司(40歳、12年没83歳)▽岩間一郎(45歳、87年没63歳)▽杉山康之助(33歳、79年没42歳)=東京東支局