2023年1月6日
『目撃者たちの記憶1964~2021』番外・写真部記者列伝⑦ 鈴木茂雄——軽井沢のテニスコートで皇太子・美智子さんのツーショット撮影
この新聞は、1958(昭和33)年11月27日皇太子殿下と美智子さん(現上皇陛下と同妃殿下)の婚約発表と同時に配られた8㌻の「特別夕刊」である。
「皇太子妃報道に完勝」と『毎日新聞百年史』にある。横1段半の見出しを「赤刷り」し、お2人の写真を7段抜きで扱った。婚約発表と同時に全国各地で同時に配達できるように、事前に印刷・発送してあった。
このツーショット写真を撮ったのは、鈴木茂雄東京本社写真部員(当時31歳)である。
その時の模様を毎日新聞東京本社写真部OB会編『【激写】昭和』(平河出版社1989年刊)に書き残している。
《皇太子さまは観客席の最前列のベンチに腰をおろし、隣に座った学友と話し合われていた。そこへ素晴らしいお嬢さんが姿を現し、学友の隣の席につかれた。わたしのカメラ位置は皇太子さまの右正面、早速カメラを構えると、学友が体全体をそらしてくれたので、殿下とお嬢さんとが並ぶ図柄になった》
写真をよく見ると、皇太子さまと美智子さんの間にラケットを持った男性が写っている。その男性が、鈴木カメラマンがツーショットを撮れるように、体を引いて、殿下の後ろに隠れたのだ。
結果、この写真が特ダネになった。
《試合が始まったころ、社会部富永千枝子記者、通称お富サン(結婚して関姓、2021年没88歳)に
「さっき、ベンチでおそばにいたお嬢さんはどなたなの」
とたずねると
「正田美智子さん」
「こんな大勢のお嬢さまがたをひとりひとり全部写すの? 名前がわからなくて困ったな!」
「写真を見れば名前はわかるから心配ないわ」
「さっきの美智子さん、お妃候補?」
「わからないわ、まったく見当がつかないのがホンネョ」
「じゃー、名前のほうよろしく」
「ひとりでも多くのお嬢さん写しておいて下さいね」と、コート内でお富サンと別れた》
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鈴木さんは46年入社。東京・大阪写真部デスクから75年9月東京本社写真部長。79年毎日グラフ編集長。2009年7月29日没、83歳だった。
(堤 哲)