随筆集

2025年1月20日

男振り山に残して夏たける——竹内善昭さんが残した句集

 牧内節男さんのブログ「銀座一丁目新聞」2003年(平成15年)8月20日号に、牧内さんの前任の社会部長・竹内善昭さん(2025年1月5日没96歳)から「手作りの句集が送られてきた」と書いている。22年前のことである。

 「俳句を勉強していると聞いていたが俳句らしい俳句になっており、感心した」と悠々(牧内さんの俳号)。

初鰹吊す男の腕太し

 「新鮮なうえ身がたっぷりある初鰹を思わせる。初鰹と太い腕の対比が見事である。深層心理的に言うと、若さを羨んでいる句ともいえる」

べた貼りの孫の手作り紙幟

 「ほほえましく素直な句である。それだけに心地よく響く。俳句は何でも詠いあげることができる。頂いた手紙にはこんな事が書いてあった。

 『先日孫達が夏の休みにやってきました(怪獣いっぱいつれて)。大声で頭が痛くなるのでこちらは早々の二階にあがってしまい、食事から何から一切丸投げされて女房もダウン寸前でした』

 5月には素晴らしい歌心をしめした男が8月には『おじいさんの役割』を放棄するとは情けない??。年を考えれば当然か」

朝涼しもうひと眠り共白髪

 「子供達も独立し、夫婦だけでくつろげる日々となった。その感じがよく出ている。仲の良い夫婦なのであろう」

小さくとも凛と信濃の水芭蕉

 「水芭蕉は作者自身である。地下に大きな根を張り、見事に白い花を咲かせるその様は、自信に満ち溢れて仕事をしてきた男そのものである。『凛と』の表現が句を貫いている」

流されつなお前へ跳ぶあめんぼう

ふとしたる仏心かすめ蚊を払う

 「常に前向きに生き、思いやりのある作者ならではの句である」

蝉しぐれ武寮の丘に聞きし過去

 「竹内さんは東京陸軍幼年学校47期生である。その武寮は戸山台にあった。3年生の夏、敗戦を迎えた。蝉しぐれれを聞いていると、作者は戸山が原の蝉しぐれを思い出す。学科、教練、軍歌演習、号令調整に励んだ事が走馬灯のように浮かぶ。

 『戦中をアルバムに閉じ蝉しぐれ』の句もある。その過去があるから今日があり、未来がある」

 竹内さんが、事件記者佐々木武惟さん(2004年没81歳)から社会部長を引き継いだのは、1975年2月、46歳だった。ロッキード事件が発覚して76年3月、50歳の牧内節男さんに引き渡し、入れ替わって論説委員となった。

 竹内さんは昭和3年生まれ、牧内さんは大正14年生まれだから、3歳年上に社会部長を引き継いだことになる。

 陸幼と陸士。陸軍つながりで、話があったのであろう。

(堤  哲)