随筆集

2025年2月26日

人生いろいろ・老人ホームいろいろ

 『ゆうLUCKペン』47集が届いた。このホームページの編集長だった高尾義彦さんが急死したあと、事実上の編集長として孤軍奮闘している堤哲さんからだ。毎号贈ってくれる。今回は「47集を読んで毎友会HPに何か書け」とのメモ付き。これまでのご好意に報いるべく、これを拒否するわけには参らない。

 24人が執筆、堂々231ページ。パラパラとページを繰る。力作ぞろいだ。感想を一言でいえば、「皆さん、よく書くなぁ」。毎日新聞在社27年余り。中退して40年近く。90歳代に入り、気力・体力・知力の急激な衰えを痛感、筆力に至っては完全にダウン。とはいえ、ここは堤編集長の「厳命」に応えねば、あとで何と言われるか。

 と改めて目次を見ると、あった、あった。老人ホームをめぐるエッセイが2編。新入りの老人ホーム居住者としては、このお二人の胸を借りて、責を果たそう。 お一人は本田克夫さん。もうお一人は福島清彦さん。

 歌は下手でも……大声を張り上げて

 本田さんは98歳。整理部一筋。1981年に繰り上げ定年。面識のある、百寿に届く数少ない先輩。47集のお題『高齢の道は未知に満ちて……』の筆者に誠にふさわしい。タイトルは<老人ホーム生活 2年間のあれこれ ボケない100歳をめざして…>。前文は——。

 ≪老人ホームの中でも介護度が低いサービス付き高齢者住宅(サ高住)に入居して約2年経った。前回46集で「入居の記」を書いたところ牧太郎さんがサンデー毎日(2024年4月7日号)でこれを引用され、おかげで世間様の目にとまって晴れがましい気分だった。今回はその後の生活で気づいたことなどを綴ってみたい≫

 90歳の私は昨年11月、同年配の妻と千葉県市川市内の介護付き老人ホームに、予備知識もほとんどないまま、あわただしく入居した。入居まだ100日ほどの老人ホーム居住者としては新米。そんな立場から本田さんの「2年間のあれこれ」を読んで、いろいろ教えられた。いくつか挙げてみよう。

 *老人ホームは毎日が静かで何の変化もないように見えるが、実はかなり入居者の入れ替わりが激しい。2年間で入居者60人のうち半分くらいが入れ替わったようだ。齢をとると老衰のスピードが思った以上に速いことだ。

 (天野コメント:居者約150人のわがホームでは、入れ替わりの頻度がどれくらいか。食堂での「観察」では分からない。老衰はスピードアップするという指摘はショック)

*車イスの妻と「サ高住」(サービス付き高齢者住宅)で暮らし始めたが、3か月ほど経ったころ、この生活は長くは続けられないと考え、妻は身の回りの面倒をすべて見てくれる特別養護老人ホーム(特養)に申し込んだ。

 (天野コメント:わがホームでも、どちらかが車イスの夫婦が何組か。私は「要支援1」、妻は「要支援2」で、共に車イスではないけれど、あすはわが身かも)

 *毎朝、食事のあと無人の食堂で1歳下の台湾の高等師範卒の爺さんが弾くピアノに合わせ、世界民謡など大声を張り上げて歌う。そのあと、もっぱら聞き役だが、30分ほど「学識のある」雑談。子ども頃から歌は上手くないが、今更恥ずかしがる齢でもない。唄うと気分が晴れるうえ、咽喉や内臓筋肉の体操になると勝手に思い込んでいる。

 (天野コメント:到底まねはできないが、「ボケない100歳をめざす」本田さんに脱帽)

 高成長する老人ホーム産業

 福島清彦さんは80歳。千葉支局を経て経済部。1977年退社。在社中はまったく接点がなく、私が世話役をしていた「さつき会」(毎日新聞OB・OGで教育関係の仕事をしている人の集まり)の懇親会で、立教大学教授だった福島さんと立ち話を交わした程度のお付き合い。<八十路を迎えた老いの道 “老人ホーム”入居して一年弱は……>と題する福島さんの文章から気づかされた、いくつかの点を抜き書きする。

 *自宅2階の1室を自室にしていたが、4回目の手術後、体力の衰えが進み、階段の上り下りが危険に。良い老人ホームがあればと何カ所も下見していると、自宅から30㍍ほどのところに良い老人ホームが最近、完工していた。そこに決めたのは何よりも場所が近いからだ。

 (天野コメント:こんな立地条件のいい老人ホームに入れるのは、そうあることではないと思う)

 *このホームは3つのことに気をつけている。①火の用心②戸締まり③水回り。70歳代から90歳代まで約80人が3階建ての施設に入居。入居者が煮炊きできる共用台所設備は1カ所だけ。ガス施設はなく新型電熱コンロと電子レンジだけ。出入り口は電子ロックのかかった玄関の1カ所だけ。入居者が出かけるときは、受付職員が必ず、氏名、行く先、帰館予定時刻を訊く。内容不明の答えをすると、外へ出してもらえない。老人ホームで事故が多いのは風呂場。介護サービスとして職員が背中を流したり、髪を洗ったりするが、これは有料。

 (天野コメント:わがホームに比べるとかなり厳格。いろいろ追加料金がかかるのは同じ)

 *高齢者は今後さらに増える。その中にはかなり高い(1千万円以上)入居金と入居後の食材費(月20万円かそれ以上)を払える人が多いと思われる。入居需要は今後も増えるので、有料老人ホームは成長産業だ。入居者の満足度が高い施設を提供できる介護付き老人ホーム提供業者は成長企業である。

 (天野コメント:野村総合研究所ヨーロッパ社長などを歴任した経済学者の福島さんの見立てだ。福島さんは「良い」老人ホームを強調しており、入居後もその点は満足されているようだが、「良い」基準と経済的負担のバランスをどう取るか。ちなみにわがホームは入居金ゼロ)

 老人ホームに関心の向きは、お二人の体験記をお読みになることを勧めます。本田さん、福島さんの場合もそうですが、先輩・同輩・後輩や友人・知人など老人ホーム入居者の話を聞くと、実に様々である。まさに<人生いろいろ・老人ホームいろいろ>の感を深くする。

(天野 勝文)

 本田・福島両氏の写真を。本田さんはことし2025年の出版記念パーティーに欠席したため昨年の記念撮影から。後列に並んでいる。前列は山本茂さん。

画像
左が本田克夫さん、右が福島清彦さん