2025年8月18日
「戦後80年に想う」⑥
「平和創出国家」(神倉 力88歳)
戦後80年、「新しい戦前」と言われ、戦争の足音が不気味に響きつつある。アジア太平洋戦争で壊滅的被害を受けた日本は80年間戦争しなかった輝ける歴史を築いてきた。「戦争は起こしてはいけない」というのが国民の共通認識となっているが、戦争を起こさないようにする具体策にお目にかかったことがない。私は長年、戦争を起こさずに平和をいかにして実現するかの思索を続け、日本の行く道は「平和創出国家」であるという結論に達した。この構想を実現すれば日本は戦争をせず、ひいては世界平和実現に貢献することができる。
「核戦争に勝者はいない」
2022年2月24日ロシアによる、ウクライナへの侵攻は衝撃だった。大ロシア・旧ソ連への夢を再現しようとする狂ったロマンチストにウクライナの人たちは命を奪われ、世界が振り回されている。世界中が軍拡競争に狂奔し始め、日本でも反撃能力(敵基地攻撃能力)や防衛費の増大など軍備増強論議がかまびすしい。アメリカからGDP比3.5%への増強を要求されている。政治家もメディアも軍拡議論ばかり。平和憲法の原点を論じることを置き去りにしている。今こそ平和憲法を論ずるべき時ではないのか。
ロシアのウクライナ侵攻は、国連安保理常任理事国5カ国が「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」との核戦争回避に向けた共同声明を発表してから2カ月足らず。核抑止論は裏切られた。核保有国が戦争を起こせば抑止力は役に立たない。勝つためには相手よりも強大な軍備が必要だから、軍拡競争は限りなく続き、最終的には核兵器を持たなければ勝てない。これでは人類絶滅への道を落ち続けるしかない。
平和憲法の理想
1945年8月の敗戦以来、日本自身は戦争をしなかった。これは疑いのない事実である。
憲法前文は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と宣言している。国民の生命、自由、幸福追求は武力ではなく、「諸国民の公正と信義を信頼して」守る道を選んだのだ。力に対し力で報復すれば戦争はなくならない。それを避けるには力による報復をやめることが肝要だ。日本は今こそ原点に立ち返って非戦を貫くべき時である。
軍備増強論者は「何を青臭いことを。現実はそんなに甘くはない」という。それに対し護憲陣営は相手を納得させられる有効な方法を示せなかった。護憲陣営が唱える中立では国を守れない。幕末の長岡藩のように、中立を唱えても攻撃されれば戦わなければならないからだ。憲法を「護る」という受け身ではいけない。憲法を積極的に活用して平和を創り出す「活憲」でなければ憲法の理想は実現できない。
平和とは戦争がないだけではない。憲法前文が掲げるように「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去」することであり、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」社会を実現してこそ平和だといえる。あらゆる貧困、飢餓、差別、格差をなくすことである。これは日本国憲法が掲げる理想を実現することであり、武力によっては決して実現できない。
そこで軍備増強論者に対抗できる案を示したい。それは地球上から戦争を起こさせる根っこを摘み取ること。その為には、日本が「平和創出国家」になることである。具体的に示そう。
平和創出国家構想
自衛隊を「平和創出部隊」に全面改組し、防衛費8兆円すべてを平和創出のために支出、自衛隊23万人を平和創出隊員として世界中に派遣する。世界のODA( 政府開発援助)の総額は約40兆円。そこへ毎年8兆円もの資金が投入されたら、国際社会はドラスチックに変わる。
平和創出部隊は「平和創出隊」「平和貢献隊」「災害対応隊」の3隊編成。平和創出隊は砂漠に植林し、水のない所には井戸を掘り、水道を建設し、学校を造ったり、感染症撲滅のためのワクチン接種、戦争や感染症で親を亡くした子供たちを支援したり、職業のない人たちに技術と仕事を与え、宗教対立の地域では対話の場をあっせんするなど、争いのもとを断つ仕事をする。本当のテロ撲滅の戦いとはこういうことである。テロ集団排除のため武力を行使すれば、力による報復を産み続け、テロは拡散してしまう。
平和貢献隊は内戦終了地域でインフラを整備したり、戦争孤児の面倒を見たり、いわばPKOの仕事。災害対応隊は日本に限らず世界中の災害発生にいち早く救助や救援に携わる。2011年の東日本大震災はじめ各地の災害で自衛隊の災害対応能力が高いことが証明されており、世界中から歓迎されるだろう。
ユニホームも軍服ではなく平和創出にふさわしいものを制定し、世界中から「あれが日本の平和創出部隊だ」と分かるようにする。そして、「日本は戦争を放棄し武力を持っていません。日本が他国の侵略を受けた場合には声を上げてください」と訴える。国際世論は、無謀な侵略を非難し、結果として侵略者は排除される。ウクライナ戦争でもイスラエルのガザ市民惨殺でも無差別殺戮は非難されている。
理想への道か破滅への道か
中国が台頭し、アメリカと覇権を争っている。欧米自由主義圏と中国、ロシアなどの強権政治圏との争いが世界を分断し平和から遠ざけている。このため各国は熾烈な軍拡競争を繰り広げている。日本は地政学的に中国、ロシアと仲良くしなければやっていけない。欧米とは違って、中ロとの対立も決定的ではない。ここに、日本の生きる道がある。中南米では、ラテンアメリカ全33カ国が核兵器を全面禁止する「トラテロルコ条約」に調印している。世界初の非核兵器地帯条約だ。アジア、アフリカなどには、欧米圏にも中ロ圏にも属したくない国々がある。それらの国々と連携し、覇権に属しない平和勢力を構築する。日本は世界第4位の経済大国であり、唯一の被爆国でもある。第3極のリーダーになる資格も責務もある。
これこそが日本国憲法が目指す理想である。国際情勢に合わせて憲法を踏みにじるのか、憲法を活かして世界平和へ進むのか。人類破滅への道を行くのか、憲法の目指す理想への道を歩むのか、日本国民は選択を迫られている。メディアは、原点に立った議論をしてほしい。
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神倉力さんは、1961年入社。中部本社報道部、同整理部、東京本社地方版編集、水戸支局、地方版編集、盛岡支局長、社会部編集委員。