集まりました

2021年1月12日

新聞協会賞「にほんでいきる」の2記者を講師に「二金会」

 編集局OBらの勉強会、2021年初の「二金会」は8日午後6時半からZoomで開かれた。

 講師は「『にほんでいきる』外国籍の子どもたちの学ぶ権利を問うキャンペーン報道」で2020年度の新聞協会賞を受賞した奥山はるなさん(08年入社、社会部→現在は「キャリアパスのため」人事部)と堀智行さん(04年入社、現宇都宮支局次長)。

2020年度新聞協会賞に輝いたキャンペーンの第1報2019年1月7日付
奥山はるな記者
堀智行記者

 2019年4月に改正入管難民法が施行され、在留外国人数は同年末で過去最多の293万人に達した。しかし、外国籍の子どもは義務教育の対象外で、学校に行っていない子どもがどれだけいるのか、それさえ分かっていなかった。

 奥山さんは、2017年に産休明けで社会部遊軍記者となり、学生時代から取り組んでいた外国籍の子どもたちの教育問題がテーマにならないか、女性初の社会部長磯崎由美さん(現編成編集局次長)に相談した。元文科省担当の篠原成行デスク(96年入社)が「不就学の実態を調べてみたら」と手掛かりを提案、警視庁担当から遊軍になっていた堀さんらと取材を始めた。

 外国籍の子どもが多く住む上位100自治体へのアンケート調査を実施した。その結果、少なくとも外国籍の子どもの約2割に当たる約1万6000人が、存在が確認できず学校に通っているか分からない「就学不明」になっていると判明。同時に100自治体のうち38自治体で就学不明の子どもの居場所を調査していないことも明らかになった。

 その紙面が、この欄の最初に掲載した2019年1月7日付紙面だが、同時に「にほんでいきる」キャンペ-ンを始めた。第1部では、就学不明になった末に虐待死したブラジル国籍の小学1年生の女児ら、7人の子どもの窮状を伝えた。

 その後文科省の全国調査で「就学不明の子どもは2万2000人」にのぼることが分かった。

 外国で生まれ育った子どもたちの多くは日本語が分からず、日本語指導を受けなければ学校の授業が理解できない。また日本は、子どもの教育を受ける権利を明記した国際条約「子どもの権利条約」を批准しているにもかかわらず、外国人を義務教育の対象外としている。改正入管法案を巡る審議では、こうした子どもの受け皿をどうするか、ほとんど触れられないままだった。

 日本語が理解できないために十分な教育が受けられない子どもが増加すれば、地域のトラブルや分断を生みかねない。問題を広く伝え、「にほんでいきる」ための環境を整える議論を提起することは、グローバル化が進み、外国人との共生が現実的になった時代の中で、避けて通れない道なのではないか――。

 「言葉が通じず、学校に居場所がなかった」「『日本語が分からなければ入学させられない』と言われた」「『国に帰れ』とののしられた」。子どもたちは、口々に厳しい現実を語った。

 「にほんでいきる」キャンぺーンは4部まで続いた。この問題は国会でも取り上げられ、文科省も取り組みを本格化、2019年6月、国と地方自治体に外国人の日本語教育に関する施策を実施する責務があると明記した「日本語教育推進法」が参院本会議で可決、成立した。

 2020年3月には文科省の有識者会議が、全ての外国籍の子どもに対する「就学促進」を法的に位置づけるよう求める報告書案をまとめた。

 文科省は21年度の概算要求で、「外国人児童生徒等への教育の充実」名目で13億5800万円を提出した。20年度の約1・6倍で就学促進策も盛り込まれた。

 ——以上が2人の話を要約したものだ。奥山さんは「こんなニッチなテーマで協会賞をいただけるなんて思ってもみなかった」と話したが、今回の「二金会」の取りまとめ役をつとめた磯野彰彦元編集局次長は「新聞協会賞は、どれを申請するか社内でもめることがある。今回はキャンペーンを進めた磯崎局次長の存在もあったのではないか」と述べた。

 「にほんでいきる」は明石書店から出版された。

 四六判、272ページ。本体1,600円+税。ISBN:9784750351193

 パワーポイントの21枚目が以下の画像だが、磯野さんは即答で「買いました!」と本をZoomカメラに向けた。

「購入しました」と磯野さん

 「二金会」参加者は、天野勝文、磯野彰彦、重里徹也、中井良則、橋場義之、石郷岡建、中田彰生、椎橋勝信、渋川智明、倉重篤郎、高橋弘司とゼミ学生1人、及川正也(論説委員)、堤哲。(順不同)

 毎日新聞の新聞協会賞の編集部門受賞は、今回で32回目。

 1957年「暴力新地図」「官僚にっぽん」「税金にっぽん」▽61年写真「浅沼委員長刺殺される」▽62年北九州5市合併促進キャンペーン▽63年連載企画「学者の森」▽64年連載企画「組織暴力の実態」▽65年企画「泥と炎のインドシナ」▽67年黒い霧キャンペーン▽69年紙上国会・安保政策の総討論▽79年稲荷山古墳「ワカタケル=雄略天皇」銘のスクープ▽80年「早稲田大学商学部入試問題漏えい事件」のスクープ▽81年ライシャワー元駐日大使の核持ち込み発言▽86年スクープ写真「車椅子の田中元首相」▽87年連載企画「一人三脚・脳卒中記者の記録」▽89年連載企画「政治家とカネ」▽92年「リクルート ダイエーの傘下に」のスクープ▽96年アウンサンスーチー、ビルマからの手紙▽2000年「片山隼君事故」から事件事故被害者の権利と支援策の確立を追求し続けたキャンペーン報道▽01年「旧石器発掘捏造(ねつぞう)」のスクープ▽02年 防衛庁による情報公開請求者リスト作成に関するスクープ▽03年自衛官募集のための住民基本台帳情報収集に関するスクープ▽06年「パキスタン地震」一連の写真報道▽07年「長崎市長銃撃事件」の写真報道▽08年「アスベスト被害」一連の報道▽09年「無保険の子」救済キャンペーン▽11年「力士が八百長メール」のスクープをはじめ大相撲八百長問題を巡る一連の報道▽同年「3・11大津波襲来の瞬間」をとらえたスクープ写真▽14年「太郎さん」など認知症の身元不明者らを巡る「老いてさまよう」の一連の報道▽16年連続震度7「奇跡の救出」など熊本地震の写真報道▽17年ボルトも驚がく 日本リレー史上初の銀▽18年キャンペーン報道「旧優生保護法を問う」▽19年「台風21号 関空大打撃」の写真報道▽20年「にほんでいきる」外国籍の子どもたちの学ぶ権利を問うキャンペーン報道。

(堤  哲)