2022年2月25日
潟永秀一郎元サンデー毎日編集長が、RKB毎日放送・ラジオ出演ナマ再録
4月に社長に就任する松木健・東京本社代表(60)らと同期(85年入社)で、入社以来「85のイロモノ」として社内外をウロウロしておりました潟永です。今回は、私が出演しているRKB毎日放送(本社・福岡市)のラジオ番組「インサイト」で私が勝手に始め、なぜか人気コーナーになった「この歌詞がすごい!」というトークコラムについて、「何か書きなさい」という天野勝文・大先輩のご指示で、寄稿させていただきます。
恥ずかしながら私、学生時代は作詞家志望で、ヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)に出場する音大生らに歌詞を提供し、一部はヤマハと印税契約も結びました。
結果、「夢」に終わって毎日新聞に拾ってもらうわけですが、今も好きな曲は歌詞カードを読み込み、自分なりに解釈して楽しむという、暗い趣味を持っております。
ちなみにサンデー毎日の編集長当時、歌謡界の大御所だった故・なかにし礼さんにコラムや小説を連載していただきましたが、その圧倒的文才を知るにつけ、「自分はなんと大それた夢を見ていたのか」と、愕然としたことを忘れません。
そんな私が、図々しくも歌詞の解釈を始めた理由は、正直言って「ネタ枯れ」でした。私の出演は毎週水曜朝の約30分間。社会ネタなど2~3本の話題を語るのですが、取材現場を離れた今は毎週、ネタ探しに四苦八苦。しかも世の中「コロナ一色」になったこの2年はなおさらで、ついに番組プロデューサーに「こんなのはどうでしょう? 不評なら1回でやめます」と頼み込んだのが、昨年2月のことでした。
ところが、普段の話がつまらなかったというのもあってか、通常よりリスナーの反応が良く、「じゃあ、毎月最終週で」とレギュラー企画に。録音の使い回しは安上がりだからでしょうが、昨年12月には1年間の“好評回”が1週間、再放送されました。
と、ここまで書いても、「そこでお前は何をしゃべってるんだ?」と、お思いでしょう。はい、分かりました。恥ずかしながら、ある回の放送内容をそのまま起こして以下に記載します。「♪」の部分は、紹介する曲が流れています。恐縮ですが、歌詞の再掲は著作権法に触れますので、よろしければCDなどで補ってお読みください。
◇
今日のコラムは、月イチ企画「この歌詞がすごい!」。今日は、竹内まりやさんの、あの名曲を取り上げます。
♪(音楽流れる)『マンハッタンキス』
まず、お聞きいただいたのは1992年のヒット曲『マンハッタンキス』です。
この歌、何がすごいって、最初の歌詞から「深い」んです。
「Don't disturb」、分かります? シティホテルとかで「朝、起こさないでほしいときにドアに掛ける札」ですよね。そう、この歌い出しで既にここがホテルの一室だと想像できます。
しかも続いて「閉ざされた部屋の中だけが、私になれる場所」って、最初のワンフレーズでもう、女性が置かれた立場は「閉ざされたもの」、一緒にいる人とは、人に言えない関係だと気付かされます。
そうすると、「Don't disturb」は、単にドアに掛ける札でなく、「邪魔しないで」という言葉本来の意味、この女性の思いでもあると分かるんです。ねぇ、深いでしょう。
でもね、私が一番ハッとした歌詞は、このフレーズ
「何もかも まるでなかったようにシャツを着る 愛しい背中 眺めるの」
――の「眺める」です。
ここまでの歌詞の流れからしたら、普通は「見つめる」です。「邪魔しないで」「愛しい」ですから。でも、「眺める」なんです。眺めるって、距離があって少し客観視している、どこか冷めた言葉ですよね。
で、何を感じるかと言うと、彼女はきっと、「この関係は長続きしない」と分かっているんだな、ということです。「眺める」の、たった一言で。
そしてその背中に、無言でこう語り掛けます。
「私より本当はもっと孤独な誰かが あなたの帰り待ってるわ」って。
「誰か」は、もうお分かりですよね。プライドですね。
でも、やっぱり強がりだから、一人残された部屋で彼女は呟きます。
「どうして愛してるだけじゃ満たされなくなる 愛されるまでは」と。
そして、曲は最後また「Don't disturb」で締めるんですが、その前にこう言います。「Till I hear you say you love me」――「あなたが愛していると言ってくれるまで」、「Don't disturb」誰も邪魔しないで……そう終わるんですね。
これを覚えておいて、次の曲をお願いします。
♪(音楽流れる)『駅』
はい。こちらのほうが有名ですね。『駅』です。この曲を聞いて涙したことがある方、結構いらっしゃるんじゃないですか。
私、実はこの『駅』という歌は『マンハッタンキス』のアンサーソングなんじゃないか? いや、曲が生まれた順番は逆なので、『駅』からさかのぼってマンハッタンキスが生まれたのかな、と私は思っていまして、後で説明しますが、これが見事につながるんですね。
冒頭は有名な歌詞です。
「見覚えのあるレインコート 黄昏の駅で胸が震えた」
この歌も、最初のワンフレーズで情景が浮かぶんですね。レインコートだから雨、それもおそらく、少し冷たい雨の日の、黄昏の駅です。
「はやい足取り まぎれもなく 昔愛してた あの人なのね」
って、もうここまでで、目の前に映像が広がりますよね。愛していたのに結ばれなかった人と偶然出会い、彼は彼女に気づかないまま通り過ぎていく……まるで映画です。
そうして、私が「この歌詞がすごい」と思ったのは、次のフレーズです。
「一つ隣の車両に乗り うつむく横顔見ていたら 思わず涙あふれてきそう 今になって、あなたの気持ち、初めてわかるの 痛いほど 私だけ愛してたことも」
この「私だけ愛してた」の部分でして、これは二つの解釈が成り立つんです。
一つは、私だけ「が」、つまり、やっぱり自分は愛されていなかった――という解釈。
もう一つは、私だけ「を」、つまり、彼は別の人の元へ戻ったけれど、本当に愛していたのは私だった――という解釈。
歌詞を「私だけ」、で切ったことで、二つの解釈が生まれるんですが、私は後の方だと思いますし、そうすると「マンハッタンキス」とつながるんです。
さっき言いましたよね。マンハッタンキスは「Till I hear you say you love me」「Don't disturb」――「あなたが愛していると言ってくれるまで、誰も邪魔しないで」で終るんですが、もし、彼からその言葉を聞く前に別れが来たとしたら……。それから2年後、駅で出会った彼が、寂しそうにうつむいている横顔を見たとしたら……
ねっ、一つの物語になるでしょう。
彼女は「あの人は、本当は私だけを愛してくれていたんだ」「だから今、寂しそうなんだ」と、そう思いたいだけかもしれないけれど、確かにそう思って、結ばれなかった恋にピリオドを打てたんだろうと、そんな風に読んだんですね。
それが正しいかどうかは別にして、私はこうして、同じシンガーソングライターの曲をつなげて、一つの映画みたいに楽しむことがあります。
ちなみに、同じ竹内まりやさんの『純愛ラプソディー』は、『マンハッタンキス』の昼間バージョンとして聞くこともできます。
ま、歌にはそういう楽しみ方もあるということで、お時間あったら、ご紹介した3曲、続けて聞いてみてください。
◇
というような解釈を、原稿を書いている2月時点で13回、計二十数曲について話してきました。すみません。
言い訳めきますが、台本は決して仕事中に書いているわけではなく、週末に曲を選んで、放送前夜に(時に未明までかけて)仕上げています。費やす時間を考えると、ギャラは時給1000円にも満たないのですが、「楽しみにしているリスナーがいる」という担当プロデューサーの声に励まされながら、細々と続けています。
放送エリアは北部九州ですが、パソコンやスマホアプリの「radiko(ラジコ)」でもお聞きいただけます。「櫻井浩二インサイト」で検索できますので、もしよろしければ。私以外にも番組には日替わりで、元外信部長の飯田和郎さん、元社会部の神戸金史君、論説委員の元村有希子さんも出演しています。
(潟永 秀一郎)
潟永秀一郎さんは1985年入社。福岡本部報道部、生活報道部の各デスク、長崎支局長、サンデー毎日編集長など務め、2020年3月選択定年。2020年4月から東日印刷。新規事業部門のマネージャー兼務で、東日印刷子会社「トライ」の代表取締役。
※ラジコは https://www.radiko.jp