2022年6月20日
元経済部の牧野義司さんが「挑戦するシニアの会」で積極的に活動
コロナ禍で苦しむ若手音楽家の支援でコンサート、「挑戦するシニアの会」が主催
ちょうど1か月前の5月28日午後、東京千代田区の区立いきいきプラザ地下ホールで、コロナ禍で演奏機会が少ない若手の音楽家を支援しようという「挑戦するシニアの会」(早房長治代表理事)主催の「ワンコイン」コンサートが開かれた。この日は写真のように、ヴァイオリン演奏の東亮汰さん、ピアノの五十嵐薫子さんの若手2人による協奏だった。
「挑戦するシニアの会」の話をする前に、まずは、この日の演奏の話から始めよう。
ヴァイオリンの東さん、ピアノの五十嵐さんの若手2人はハイレベル
2人の演奏者のうち、ヴァイオリン奏者の東亮汰さんは桐朋学園大学を今年春、首席で卒業したあと、同大学院音楽研究科に進学、修士課程1年生に在学中という文字どおりの若手。初々しさを残す顔立ちだが、演奏に関しては、群を抜いている。数々の優秀な若手音楽家を輩出している日本音楽コンクールの第88回大会でヴァイオリン部門第1位、併せて鷲見賞などを受賞、その後、東京交響楽団や東京フィルハーモニーなどと堂々と共演している。
昨年の第18回ショパン国際コンクールで第2位受賞の反田恭平さんは、今や世界に誇る音楽家であると同時に、事業感覚も持ち合わせていて、音楽家の活動の場を音楽家自身で創出するため、JAPAN NATIONAL ORCHESTRAという株式会社組織を立ち上げた。東さんは、そのコアメンバーとして、プロジェクトに参画するほどの実力の持ち主。
ピアノの五十嵐薫子さんも、東さんに負けず劣らずで、日本音楽コンクールのピアノ伴奏で審査員特別賞などを受賞。また日本ショパンコンクールで優勝といった実績を持つ。
フランクのヴァイオリンソナタの4楽章を2人で演奏したのは圧巻
こうした実力ある2人の演奏なので、レベルの高さは、すごいものがある。
まず、クライスラーの「プレリュードとアレグロ」、続いてブラームスの「F.A.E、ヴァイオリンソナタより スケルツオ」を一気に演奏した。いずれも深い音色が印象的だ。このほかサン=サーンス「死の舞踏」も演奏した。
圧巻は、休憩後の後半の部で2人が演奏したフランク「ヴァイオリンソナタ イ長調FWV8」だった。何と第1楽章から始まって、第2、第3、第4楽章までのトータルで30分近くの長時間演奏にチャレンジし、楽章が終わるごとに、ひと呼吸を置きながら、2人はタイミングよく、次々に演奏し、見事に4つの楽章を弾きこなした。会場ホールの100人近いシニア、若手の聴衆たちは、その迫力ある演奏に誰もが魅了された。終わっても拍手がなかなか鳴りやまなかったほど。
「挑戦するシニアの会」はもともと経済社会課題を討議、問題提起する組織
こんなすごいレベルの若手音楽家を見つけ出し、コロナ禍で演奏機会が少ない彼らのためにコンサートの「場」づくりの形で支援、という「挑戦するシニアの会」は、どんな組織なのだろうと思われることだろう。
実は、演奏機会が少ない若手音楽家を支援する目的で始まった組織ではない。もともとは、アクティブシニアをめざすシニアが中心になって、経済社会が抱えるさまざまな重要課題に関する意見交換・学習会を通じて世の中に対して問題提起、とくに重要な問題についてはシニアの立場で意見をまとめ、政府や公的機関、政党、企業やメディアに提言していくという、文字どおり豊富な人生経験、活発な問題意識を持つシニアが時代に対して積極的にチャレンジ、挑戦しようという趣旨で立ち上がった組織だ。
公立中学に出張講義したり、超高齢社会のシステムづくり
代表理事の早房さんは、地球市民ジャーナリスト工房の代表で、朝日新聞OBの経済ジャーナリスト。その取り組み、志(こころざし)に共鳴して、私が所属した毎日新聞と新聞社は異なるが、活動に積極的に参画、今は理事の立場で、会の運営にもかかわっている。
当初は、シニアメンバーのうち、太平洋戦争中に生まれた世代が中心になって、東京都内の公立中学生に歴史教育の課外授業という形で出張講義に出向き、悲惨な戦争に巻き込まれた体験を語ると同時に、日本がなぜ戦争を引き起こし経済社会に混乱をもたらしたかなどの話を語ることで、後世代につなげていこうという活動に取り組んだ。
メンバーの中にはジャーナリストOBが多いので、その時々の日本の政治経済課題について意見交換する勉強会も活発に行っている。それだけでない。高齢社会に「超」がつくほどの高齢社会化が進行するのに伴い、シニア世代にとって、その新時代に合わせた社会システムづくりが課題になるため、互いに情報を共有して、新たな社会システムには何が必要か、取り組み課題は何かなどに関しても研究し、時には提言を行っている。
コンサート開催は2014年から15回、コロナ禍で中止の時期も
シニアがシニアの世界に閉じこもってしまうことは何としても避ける必要がある。そこで早房さんらが中心になって、「挑戦するシニアの会」を立ち上げたが、若い世代などとも積極交流の場をつくることが必要との判断から、冒頭の若手音楽家支援のコンサート開催に取り組んだ。
このコンサートに関しては、コロナ禍前の2014年から毎年春と秋の年2回、東京都内の千代田区区にある地域活性化のための施設、いきいきプラザの地下ホールを借りて開催してきた。今回で15回目となる。コロナ禍の長期化で、感染リスクが高い音楽ホールでのコンサートや音楽会が中止や延期に追い込まれるケースが多く、そのあおりを受けて「挑戦するシニアの会」のコンサートも中止を余儀なくされたことが多々あった。
コンサートに関しては、千代田区区のホールなど施設活用時の会費や入場料の上限制限があり、「挑戦するシニアの会」の独自判断で、ワンコイン、つまり500円玉1枚でクラシックコンサートが楽しめるようにと入場料を500円に設定した。音楽家への謝礼や会場ホールの使用料などは、これだけではまかないきれないので、東レ、セコム、清水建設、旭化成などの企業からコンサート支援の寄付をいただき、やりくりしてきた。しかしコロナ禍で、企業サイドも経費節減経営を強いられており、今後は入場料とは別に運営費のねん出のため、年会費プランをつくって、会員に呼びかけるようにしている。
(牧野 義司)
牧野義司さんは、早稲田大学大学院経済研究科卒業後、1968年に毎日新聞東京本社入社。山形支局を振り出しに地方部地方版編集を経て経済部に。一時期、新設の特別報道部に出向したが、経済部で大半、経済取材にかかわった。1988年、ロイター通信に転職、その後、2003年に生涯現役の経済ジャーナリストをめざし、メディアオフィス時代刺激人を立ち上げて取材活動。メディアで培った問題意識や人脈ネットワークなどを生かしてインターネット上などで情報発信、同時にコンサルティングビジネスにも関与、アジア開発銀行や日本政策金融公庫、それに複数の企業でコンサルタントとしての活動を経て、現在に至っている。今回の「挑戦するシニアの会」などの活動にも積極参加している。78歳