元気で〜す

2022年11月9日

元「サンデー毎日」編集長、山田道子さんがコラム教室の講師に

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 あの大リストラに応じ、2019年9月に退社しました。その後、再就職した会社も昨年8月に辞めました。同じ頃、認知症の母の世話をしなければならなくなり、流行りの介護退職みたいになった格好です。

 現在は、自宅を拠点にフリーで働いています。名刺には「ライター」。顧みて「ジャーナリスト」と名乗るのはおこがましく、躊躇してしまいます。毎日新聞の有料ウエブサイト・経済プレミアのコラム「メディア万華鏡」は続けることがかない、その他単発で他媒体に記事を書いたりしています。

 そんな中、声をかけていただき引き受けたのが、毎日文化センターのコラム教室の講師。通信添削のコラム講座の仕事もすることになりました。

 コラム教室は2週間に1回、土曜日の午後2時間半。新聞、雑誌、書籍などから選んだコラムを生徒さんに渡し、文章の構成から表現まで書き方を解説するやり方です。最後に3つほどテーマを出し、自宅でコラムを書いてもらいます。次の教室の前に事務局を通じて送られてくる生徒さんの作品を添削し、教室で返します。添削していると、論理立て、文法、助詞や接続詞の使い方など問題点がよく分かるので、そこを重点的に話すといった感じです。

 生徒さんの数は少ないですが、双方向のやりとりができ、書いてもらったコラムを共有しながら話せるのがありがたい。新型コロナでネット会議や授業が当たり前になりましたが、リアルで議論できる面白さにひたっています。

 コラムを自分で書くのと、書き方を具体的に分かりやすく人に伝えるのは別物だと痛感しました。生徒さんの中には、名コラムニストでならした玉木研二さんの講義を聞いたという方もおられ、冷や汗ものです。

 まず、コラムとはなんぞや? と改めて考えさせられました。ヒントになったのは、私の前任、堀井泰孝・元編成局次長&元運動部長が書いたコラム教室の案内文でした。曰く、コラムすなわち「column」は英語で「柱」「縦列」などの意味。新聞や雑誌の一般記事の中で、円柱のように独立した囲み記事とのこと。一般記事は、事実関係を逆三角形で重要なことから伝えるのに対し、コラムは自らの考えや訴えたいことを、読んだ人が分かるように伝え、最後まで読んでもらわなければなりません。

 川崎支局長時代、神奈川県版の「支局長だより」なるコラムの担当が定期的に回ってきました。伝えたいことが思い浮かばない時には、わざわざ川崎市内のイベントを探して取材し、とってつけたように「訴え」で締めるコラムを書いたこともありました。「これがコラムと言えるのだろうか。一般記事でいいのではないか」とじくじたる思いでした。

 伝えたい、訴えたいテーマがあって、中身を深めるために取材するのは当然。でも、コラムの題材がないから、一から探して取材して書くというのは違うのではないかと……。 ある生徒さんによると、玉木さんは「コラムを書くにあたって、自らの経験や体験は“七難を隠す”」と強調したそうです。至言。

 自分の経験に基づいて伝えたいことが湧いてくると、ズバリはまるというのは生徒さんの作品でも露わです。最近出た「新訳 老人と海」(ヘミングウェイ著)と自らの加齢、体の衰えを重ねわせてつづった作品は見事でした。自殺に関するネット相談の番組を見て、かつて病院に通っていた時の医師との対話を振り返り、思考を深めた作品も心に残っています。いずれも自分事として頭の中に入ってきました。

 コラムは、伝えたいこと、訴えたいことがただの感想にとどまらず、社会性や普遍性を帯びることが大切なのではないでしょうか。だから、新聞や雑誌の中で「囲み記事」として存在しうるのではないでしょうか。個人的体験にいかに意味を持たせるか、というところに書く人の力が表れるのです。

 どちらがいいか悪いかの話ではなく、ここがエッセイとの違いになります。基本、エッセイは身辺雑記。これに対し、コラムは、読んだ人が「そうだ!」もしくは「違うのではないか?」などと受け止めるメッセージ性があるものだ、と私は区別しています。

 ただ、講師をするにあたりそのような視点から読んでいると、著名人やその筋の権威がエッセイを書いても、メッセージ性を有するコラムになっていることがあります。また、あえて意識的に身辺雑記にとどめ、より読者に考えてもらおうとしていると思われるエッセイ(コラム)もあるのです。

 以前より、毎日新聞などのコラムをいろいろな角度から読むようになりました。「あんたには言われたくない」と怒る方もおられるかもしれませんが、あえて言いたい。これコラム? と首をかしげ、一般記事でいいのにとこぼしたくなるのがあります。

(山田 道子)

 山田道子さんは1961年東京都生まれ。85年毎日新聞入社。社会部、政治部などを経て、2008年サンデー毎日編集長。総合週刊誌で女性初。毎日新聞編集委員などを経て現在フリーライター。毎日新聞ウエブサイト「経済プレミア」でコラム「メディア万華鏡」を連載中。