2020年4月16日
それでも桜は咲きました【15日ロンドン発 阿部菜穂子】
桜関係の行事はすべて中止になりました。
桜の行事だけではなく、欧州各国の日常すべてが「停止」状態です。本当にあっという間にコロナウィルス感染が拡大し、イギリスでも大変な被害が出ています。これまでに1万2千人以上が亡くなりました。国が対策に乗り出すのが少し遅れたとはいえ、日本に比べてなぜ欧州の死者数がこんなに爆発的に多いのか、よくわかりません。
イギリスは「全土封鎖(ロックダウン)」状態になって4週目です。学校、大学のほかレストランやパブ、スーパーと薬局以外の全店舗は閉鎖されたままで、住民には一日1回の屋外での「運動」が許されているのみです。外出時は家族以外の他人との距離を2メートル以上あけることが鉄則です。同居していない家族に会いに行くこともできません。
それでも桜は咲きました。今朝のタイムズ紙1面に、北部ノーサンバランド州の「アニックガーデン」の「太白」桜園の様子が載っていました。
今が満開のようです。この桜は、日本で絶滅してしまったのを「チェリー・イングラム」ことコリングウッド・イングラムが1932年に日本に里帰りさせたものです。アニックガーデンには350本の太白が植えられています。
桜の行事は中止になってしまいましたが、その代わりにオンラインで「チェリー・イングラム」各国語版の販促活動が行われています。たとえばイタリア語版の出版社ボラッティ・ボリギエリ社から本について小ビデオを作成してほしい、と要請があり、送ったところ、同社のフェイスブックサイトにビデオが掲載されました。
https://www.facebook.com/watch/?v=529316437766724
また、オランダ語版(下の写真)用には、オランダの主要3紙からスカイプによる取材を受けました。
記者たちは本をよく読んでくれていて、なかなか内容のある取材でした。(桜のシンボリズム、ことに明治維新後の日本で桜が国家統一のシンボルとして使われ、それが20世紀の軍国イデオロギーにつながっていった経過に興味を示され、かなり突っ込んだ質問を受けました。)
イギリスでは今、すべてがオンラインで行われています。会社の会議も「zoom」等を利用したビデオ会議で行われています。
最近、平凡社の雑誌「こころ」に添付の記事を書きました(2020年4月発行、第54号エッセイ「奇矯なジェントルマン」)。
これがロックダウン状態になる前に行った、最後の桜の仕事でした。詳しくはhttp://naokoabe.com/index.php/ja/ を見ていただければ幸いです。
「チェリー・イングラム」本の反響がイギリスの貴族にまで及んだのにはびっくりしましたが、クランブルック伯爵家での夕食会や邸宅での植樹式で伯爵家の人々と歓談したことは、大変楽しい経験でした。
伯爵の長男ゲイソン氏(将来の第6代伯爵)は桜の愛好家で、すでに50本もの桜を庭園に植えています。多様な品種の桜です。ここに今回、「太白」や「ホクサイ」、チェリー・イングラムの創った「クルサル」が加わりました。もっとたくさんの桜を植えたいと情熱的に話しておられたので、私はひそかに「2代目チェリー・イングラム」になってもらいたい、と思いました。こうやって桜の伝統がイギリスで続いていくのはとてもうれしいです。
(阿部 菜穂子)