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2020年7月8日

100回を超えた「校閲至極」―サンデー毎日連載

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 「サンデー毎日」連載の「校閲至極」が人気だ。今週7月19日号の第105回は、「虎〇門、霞〇関、丸〇内の〇は?」。

 住居表示と固有名詞が違うのだ。虎ノ門。地下鉄日比谷線の新駅は「虎ノ門ヒルズ」。「虎ノ門ヒルズ森タワー」「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」。

 しかし、金毘羅神社近くで、《記事に頻出する病院は「虎の門病院」が正解》とある。

 霞が関。地下鉄の駅は「霞ヶ関」。ビル名は「霞が関ビル」。

 丸の内。地下鉄の線名は「丸ノ内線」。旧丸ビル(丸ノ内ビルディング)が2002年に建て替えられて「丸の内ビルディング」。

 といった具合に、東京本社校閲センターの渡辺靜晴さんが蘊蓄を傾けている。

 HPによると、《この連載は2018年6月10日号の毎日新聞大阪本社・林田英明記者による「河野悦子よ、なぜスルー」という見出しの回から始まりました》。

 河野悦子とは、日本テレビ系で放映された出版社の校閲部を舞台にしたドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」の主人公で、石原さとみが演じた。ヒット番組だった。

 そのドラマで「鐘乳洞」と間違った字が映し出された。「河野悦子よ、なぜスルー」と指摘したのだ。

 「鐘」はつくりが「重」の「鍾」が正しい、とあった。

 以後、東京と大阪本社の校閲記者が交代で担当。《言葉にまつわる喜怒哀楽、見逃しの悔しさ、技術革新で変わった部分と変わらない部分、そして日本語を通じて見える今の社会》を1回1,100字にまとめた。

 渡辺、林田記者のほかに、東京本社の岩佐義樹、大阪本社の水上由布記者ら、《ベテラン、若手を問わず登場しました》。

 活版時代の降版間際は、殺気立っていた。

 紙面が組み上がって、大刷りを何枚も取る。最初に校閲部(当時)に回る。校閲部では、降版までのほんのわずかな時間に、紙面をチェックして赤字を入れる。

 校閲のOKが出ないと、降版はできない。

 編集からも直しが出るから、活字を拾う人も、面の担当者も大忙しだ。何人もが同時にピンセットで活字を抜き、直しの活字をはめ込む。活版場は湯気が沸いている感じだった。

 思い出したことがある。4半世紀も前の話だが、宮尾登美子さん(2014年没、88歳)が毎日新聞に連載した小説「蔵」が映画化された。映画の封切りに合わせて、宮尾さんに生活家庭面で随筆「蔵の春秋」を週一連載してもらった。

 当時編集委員だった私が、宮尾さんの原稿を受け取る係になった。

 そして第1回。宮尾さんとはファックスのやりとりで、最終ゲラのOKをもらった。

 1995(平成7)年5月11日(木曜日)。出社するとすぐ宮尾さんから電話があった。

 「私の原稿に勝手に手を入れて、何だと思っているのですか。こんなことでは、連載を中止します」

 相当の剣幕だった。

 OKの出た最終ゲラに、校閲が毎日新聞の用字用語で直しを入れたのを知らなかった。

 どこをどう直したのか、覚えていないが、「蔵」を担当した学芸部の宮尾担当記者にお願いして、当時宮尾さんの住んでいた狛江までお詫びに行った。

 次回以降は、宮尾さんからOKの出たゲラに、校閲チェックを入れないようお願いした。

(堤  哲)

「校閲至極」のラインアップは以下の通りだ。

第1回 校閲ドラマに「鐘乳洞」の誤字
第2回 「首相夫人」か「首相の妻」か
第3回 タイガース版辞書なのに「ミスタージャイアンツ」!
第4回 オホークツ海
第5回 テニススコアのミス
第6回 鉄綿花ってどんな花?
第7回 存在しない「津田沼市」
第8回 ロスタイムかアディショナルタイムか
第9回 映画「否定と肯定」が「肯定と否定」に
第10回 広辞苑に「エロい」載る
第11回 矢先、募金…国語辞典は?
第12回 サヨサラ
第13回 子ども? 子供?
第14回 飲み会を「飲み方」という?
第15回 板東と坂東の誤り
第16回 大先輩に聞く校閲の心構え
第17回 心中天綱島
第18回 ロシアでは「昼食」も「朝食」に?
第19回 ちょうちん行例
第20回 ♯と# どちらがハッシュタグ?
第21回 ごんぎつねは「子」ギツネか
第22回 「杉田氏」が「水田氏」に
第23回 「努力はミになる」は身か実か
第24回 変な文語「はるけし栄華」
第25回 留飲とは?「晴らす」ものか?
第26回 読みにくい「はってたすき」
第27回 多賀城市で珍字発見
第28回 W杯の侍ジャパン、文書決済
第29回 「・・・」は「……」に
第30回 「新年明けまして」は間違い?
第31回 けじめの語源は
第32回 仁徳天皇陵か大山古墳か
第33回 「改ざん」などの交ぜ書きは悪か
第34回 「乞はわれ」→「云はれて」→「言はれて」
第35回 広辞苑に見る「焼く」「炒める」の違い
第36回 写真で見破る舞妓さんと芸妓さんの間違い
第37回 「男はつらいよ」場面紹介の誤り
第38回 「一片の悔いなし」は不適切か
第39回 将棋の先手後手の誤り
第40回 「ハーフ」と「日本人来日」
第41回 5.18倍=518%増? 数字の落とし穴
第42回 カルトの教組、どうするの!
第43回 あり寄りのあり・なし
第44回 誤字とされる「鐘乳」が辞書にあった
第45回 野球スコアの誤りをSNS画像で発見
第46回 佐渡港なんてなかった
第47回 折口信夫、柳田国男の「口」「田」は清音
第48回 銭形警部の名は誤植から
第49回 鹿児島で珍字発見
第50回 速読本、誤字が目に付き速読できない
第51回 技術が進んでも「日本書記」など誤りは続く
第52回 已己巳己
第53回 政局に「する」
第54回 キャンバス跡地
第55回 国・地域より「チーム」で
第56回 逢坂剛さんとの話で盛り上がる
第57回 チコちゃん「ボーっと」書くんじゃねーよ
第58回 校閲者の本の間違いで大ショック
第59回 「荷物の絵付け」実は
第60回 6月31日
第61回 京アニ作品関連の誤り
第62回 熊のごとき誤植…校閲者の短歌
第63回 マケドニアの首都は? いや今は
第64回 創氏改名の元の名は「氏名」か
第65回 詫間が託間に
第66回 字幕で「元号は令和」が「剣豪はレイバー」に
第67回 山口県美弥市、羅患率
第68回 ハングルは文字なのに
第69回 昴が人名用漢字になってさあ困った
第70回 ハロウィンではなくハロウィーン
第71回 チリペッパーとチリパウダー
第72回 現地識者? 「現地紙記者」と分かりスッキリ
第73回 アイヌ語は「日本語ではない日本の言葉」
第74回 敷居が高い=入りにくい、広辞苑も認める
第75回 天地天命が定着? 違うでしょ
第76回 サンデー毎日(毎日出版社)で好評連載中?
第77回 「白系ロシア人」は「白人のロシア人」の誤り
第78回 一人輩出は成り立たない
第79回 「原則許しません」
第80回 縦書きの「.」の違和感
第81回 府中市、伊達市はどこの?
第82回 扶持米と扶助米…映画の間違い
第83回 いえ、大丈夫です
第84回 読み合わせの漢字の字解き
第85回 「露本土とクリミア結ぶ」
第86回 きいひん、きいへん、けえへん、こおへん、きやへん、こん
第87回 「季下に冠を正さず」とは
第88回 2位タイが「最多タイ」に 第89回 「冥福を慎んでお祈りいたします」
第90回 ろくろを「ひく」挿絵で納得
第91回 カマボコを8センチ幅に切る?
第92回 プロ野球応援の「お前」は失礼か
第93回 「耳障りのいい政策」
第94回 「球春」っていつ?
第95回 「神戸のご一党さん頑張って」
第96回 咳は常用漢字ではない
第97回 「二足のわらじ」と「立ち上げる」
第98回 恐竜のメッカ
第99回 在宅勤務始まる
第100回 残念至極な指摘
第101回 コロナも仕事も気の緩みが大敵
第102回 1カ所「壇ふみ」 誤植はつらいよ
第103回 「鉄の暴風」を伝えるために
第104回 間違いあるある コロナ関連記事
第105回 虎〇門、霞〇関、丸〇内の〇は?