2020年8月4日
「新聞革命」から30年経って
![]() 新題字91年11月5日~ |
![]() 78年元旦~ |
![]() それ以前(新の偏が立+未) |
毎日新聞が「新聞革命」と銘打って紙面の大改革を行ったのは1991年11月5日であった。この紙面改革を柱とするCI(コーポレート・アイデンティティ)計画の検討に、当時の経営企画室が着手したのは1990年1月だったから、それからすでに30年を越したことになる。
そこで当時の責任者として、CI計画を実施した体制について、少し説明しておこうと思う。最近紙面に掲載された一つの死亡記事についてちょっとした波風が立ったたからである。
社内の体制は、当時の渡辺襄社長を委員長とするCI委員会を中心にした全社運動であった。経営企画室が事務局となり、さまざまな委員会を作って、作業を行った。
外部から支援、協力するCIパートナーとして選んだのは「PAOS」であった。企業活動に美的観点を導入して企業イメージを一変するという点で、当時最も先進的であり実績を上げていたコンサルタント会社であった。同様の仕事をしていた複数の会社からの提案を検討した上でPAOSを選んだのである。PAOSは、ケンウッド、銀座松屋、INAX、ベネッセなどのCIで大きな効果を上げ、ダイエー、マツダ、NTTなどでもCI作業を担当していた実績のある会社だった。PAOSのリーダーは中西元男さんで、たまたま1990年の毎日デザイン賞を受賞していた。
PAOS側では、プランニング室とデザイン室があって、プランニング室で全体計画や毎日社員の意識改革問題などを担当し、デザイン室が紙面改革や販売店の店舗デザインなどを担当していた。
私たち、CI事務局(社内的にはMAP事務局)は連日のようにPAOSと連絡、打ち合わせの会議を開いていた。いくつかの大掛かりなマーケット調査を行い、社内意識改革のための社員大会、討論会、全社の職場説明会などを展開した。それらをまとめ上げて社内検討を始めてから1年10カ月で、例のない思い切った紙面改革を外に向かって打ち出すのは、相当の力仕事であった。
PAOSとの会議には、中西さんのほか、デザインディレクターの佐野豊さん(故人)、プランニング室長の小田島孝司さんが必ず出てきた。1991年7月にPAOSから、新聞題字、コーポレートシンボルなどのデザイン提案が役員会に提示され、11月の紙面刷新へと進んでいったのである。
紙面刷新で大きな話題になった「腹切り」はPAOSの提案だが、PAOSにとって非常に苦心した提案だったようである。真ん中で折ることができるメリットがあっても、従来の段数を変更すると、これまでと同寸法の広告スペースが確保できるか、が大きな問題であったのではないかと思っている。このスペース調整は紙面の上の欄外を拡大することによって乗り越えた。そしてこの拡大欄外が紙面改革の一つのポイントになったのだが、PAOSは徹夜作業を繰り返して細かい計算をやったと聞いている。
毎日社内でも、タブーを破るこの「腹切り」問題は難航したのだが、11月5日の紙面刷新の朝、多くのTV局がこの着目を誉める報道をしたことで、社内の論争は収束したと私は思っている。
これらの作業を振り返ってみて、毎日の活字フォント見直しという作業でフォント専門のデザイナーと会議(結論として変更する必要がないことになった)をやったケースを除いて、毎日のデザインに関連して、中西さん、佐野さん以外のデザイナーとコンタクトしたことはない。あえて付け加えれば、もう一人、TV広告をお願いした仲畑貴志さんがあるだけである。
7月31日の本紙に、グラフィックデザイナーの戸田ツトムさんの訃報が掲載され「毎日新聞が紙面を刷新した際にデザインを担当」という経歴が書かれていたことから、当時の関係者たちが首をかしげることになった。戸田さんは、書籍装丁などで有名なデザイナーであるが、毎日新聞の紙面改革にどういう関係があったのだろうか、という疑問である。
最終的に分かったことは、戸田さんがPAOSの下請けとして関わっていた、ということである。中西さんは「戸田さんの意識の中で毎日新聞プロジェクトへの思い入れが強かったのだろうと思う。彼の仕事の中で重要なプロジェクトだったと位置づけておられたのだと想像します」と言っておられる。戸田さんの業績一覧の中に「毎日新聞の紙面デザイン刷新1991」と書かれているのである。
同時に、元PAOSの責任あった人の側から「毎日の件で戸田氏と契約をしたことも、しかるべき支払いをしたことも記憶にない」という情報が寄せられている。
戸田さんのような有名デザイナーが毎日の紙面改革に参加したことを大切な経験と認識され、誇りにしていただくのは、ある意味ではありがたいことである。しかし、これはあくまでPAOSと戸田さんの関わりであり、PAOS社内の問題である。私は、毎日新聞社のデザイン改革は中西さんと佐野さんの作業であると認識してきたし、今もその認識は変わらない。正確な事実が風化してばいけないと思う。
付け加えておかなければならないが、デザイン改革はPAOSの提案ではあったが、デザインに関するすべての権利は毎日新聞社がもちろん保持している。
(秋山 哲)