2020年12月23日
検察ウオッチャー村山治さんに学ぶ
メディア関係者には必読のコラムといわれる「サンデー毎日」連載、下山進さんの「2050年のメディア」。現在発売中の2021年1月3・10日号は、つい最近『安倍・菅政権vs.検察庁』(文藝春秋)を出版した元毎日新聞・朝日新聞記者、村山治さん(70歳)を取り上げている。
見出しに
「伝説の検察記者」は記者クラブに所属せず
《「伝説の検察記者」、村山のことを人はそう呼ぶが、実は村山が(毎日新聞時代)司法記者クラブにいた期間は大阪で1年、東京で1年だけだ。1991年に村山は朝日新聞に移籍するが、村山が朝日移籍の際に、朝日側につけた条件は「出世はいいから、現場においてほしい」ということ。
つまり、記者クラブのサブキャップやキャップをやって社会部長、編集局長、役員というコースを最初から拒否していた。その理由を村山は「自分は前うち報道ではなく、検察をふくんだ構造のほうに興味があったから」だという》
『安倍・菅政権vs.検察庁』は、検察庁の内部にやたら詳しい。司法クラブたった2年でこれだけの情報を集めるのは無理だ。
同書にある略歴を見て納得した。
《(毎日新聞社会部時代)「薬害エイズキャンペーン」を手掛け、連載企画「政治家とカネ」(89年度新聞協会賞)に携わる。91年、朝日新聞社に入社。社会部遊軍記者として、東京佐川急便事件(92年)、金丸脱税事件(93年)、ゼネコン汚職事件(93,94年)、大蔵省接待汚職事件(98年)、KSD事件(2000,01年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(04年)などバブル崩壊以降の大型経済事件の報道にかかわった》
村山さんは2008年に同じ文藝春秋社から『市場検察』を出版している。あとがきにこうある。《この本は、文藝春秋出版局の下山進さんに、グローバリゼーションと検察の関係を整理しては、と勧められたことがきっかけで執筆した》
本の副題は英語でProsecutors on Globalization. 《80年代日米構造協議にかかわった検事たちは2000年代に次々と検事総長の座に坐り検察を変えた!》と。
「だんご3兄弟」原田明夫・松尾邦弘・但木敬一、のちに3代続けて検事総長となった3人が司法制度改革に取り組み、実現した過程を描く。
下山さんはこう続ける。《検察と言えば、「巨悪を剔抉(てっけつ)する」正義の味方という見方がもっぱらだった90年代にすでに村山は、「検察は日本の官僚機構を守るための装置なのではないか」という問題意識をもっていた。私はそうした問題意識にもとづく本をつくれば面白いと考えた》
それが『市場検察』だった。
『安倍・菅政権vs.検察庁』のあとがきで、村山さんが《この本で記したのは、あくまで法務・検察を足場とする筆者が、取材で得た証言などをもとにした政治と検察の関係の記録である。官邸や政権与党などを足場とする記者には、違った風景が見えているのかもしれない。本書がきっかけとなり、それらが世に出ることを期待している》と書いていることに、下山さんは、こう発破をかける。
《これはまさに今の新聞がやらなくてはならないことだ。政治部や警察担当の社会部記者、検察担当の司法記者が垣根を越えて一体となってチーム取材をしてその「大きな構図」を描け。それこそが新聞だけができる唯一無二の価値だ》
(堤 哲)