2021年4月22日
「献脳」ってご存知ですか? と、元中部本社代表 佐々木宏人さん
当方、今年の9月の誕生日で80歳になる。そろそろではなく、遅いかもしれないが、“終活”を本格的に考えなくていけない。考えてみれば大した財産があるわけでもない。コロナ禍で当分、葬式も簡略化、何か「世のため、人のため」残せることはないかと、漠然と考えていた。
3月中旬、一週間ほど自分の国指定難病「遠位性ミオパチー」の進行状況などを調べるため、東京・小平市の、戦前は陸軍病院だったという、広大な敷地内にある「国立精神・神経医療研究センター病院」( https://www.ncnp.go.jp/ )に入院してきた。
それこそ頭の先からつま先まで、連日CT、MRI、手足運動能力などの検査を受けてきた。4月初め、その総合結果の説明を、この病気が分かってから十数年の付き合いになるぶっきらぼうだが、面白い神経内科の担当医の女医さんに聞きに行ってきた。
とにかく言いにくいことを平気で言う先生。
こんな調子だ。病名が分かった時の会話―。
「この病気は薬もありません。リハビリも効果はあまりありません。進む一方です。」
「そんな!どうすりゃいいんですか?」
「マー、佐々木さんは社会人として普通に過ごされてきたんですから、今までと同じに過ごされるんですね!」
こんな調子のやり取りを年に数回、重ねてきた。
そしてこの日の検査結果のやり取り。
「MRIなどの検査結果を見ると、マー、内臓はあと20年は持ちますね」
「ゲッ、先生、そうなると100才ですよ」
「大丈夫!病気自体は徐々に進行しますけど‐‐‐、マー、脳内部に筋疾患特有の変化が見られます。そうだ、佐々木さん、こういうのがあるんです。登録しませんか?」と言って渡されたのが「ブレインバンク」の説明書=写真。要するに死後、大学病院などでの解剖を希望する”献体”と同じで、脳を提供するのだという。だから「献脳」。「ブレインバンク」というそうです。
突然勧めるのがいかにもこの先生らしい。
当方の死後、遺体を「国立精神・神経センター病院」に運び3、4時間かけて解剖、脳や脊髄の神経細胞を取り出し、研究のために保存、役立てるシステムという。
薬も、治療法もなく、全国に500人程度しかいない当方の病気の解明に少しでも役立つならーと早速、申し込むことにした。患者のほとんどが20歳前後で発病、数年で車イス状態になる。
当方が診断されたのは65歳、担当医は「佐々木さん、あなたはこの病気の学会では有名人なんですよ。70歳近くなってこの病気にかかる人はレアケースなんです」。
毎日新聞社での十分楽しい生活を送ってきたことを考えれば、恩返し。それなりに役に立ちそう。
死後、大学病院などに遺体を解剖に役立たててもらう「献体」というシステムがある。しかし独居老人などが増えて、申し込みが多く、「申し込みお断り」というところも多いと聞く。私の身の回りにも大学病院への「献体を」断られた‐という人がいる。さらにこの「献体」は解剖の順番がすぐに来るわけではなく、数ヶ月かかることもある。解剖後、お骨になって帰ってくる。葬儀から骨上げの儀式がなくなる。
しかしこのブレインバンク、「献脳生前登録」では同病院での病理解剖後3、4時間で遺体は自宅に戻れる。そのまま葬儀を執り行うことが可能だ。
「国立精神・神経医療研究センター病院」は、パーキンソン病や筋ジストロフィー、ALSなど脳神経疾患、筋肉疾患、精神疾患などの、脳や脊髄に存在する神経細胞の異常によって起きる難病の全国の中心センター病院になっている。このため2006年から、これらの病気の治療法を確立するため、患者や健常者の脳の提供を死後に受けて、治療法や薬品の開発に役たてようという事で、このブレインバンクをスタートさせた。すでにパーキンソン病などの治療に役立つ成果が出ているという。
別に脳の異常がない人でも、病気を持つ人との比較の意味で「献脳」は有難いという。将来的には認知症の解明にも役立つこともありそう。
私が「ブレインバンク」への登録を家族に話したら、「私も申し込もう。認知症の治療に役に立つかもしれない」と女房。娘に話すと「お母さんの方が役に立つかもしれない!」
マー、ご興味のある方は下記のところに連絡を取ってみてください。ブレインバンク研究協力関係を結んでいる「献脳」可能な大学病院などは全国に、9か所があるようだ。ご興味のある方は、以下のホームページなどでコンタクトをとってください。
https://www.brain-bank.org/ (ブレインバンク事務局のHP)
https://www.ncnp.go.jp/ (国立精神・神経研究センター病院)