2021年11月16日
ON→OF時代(大谷翔平・藤井聡太)時代と池井優さんが命名——連載小説「無月の譜」終了を惜しんで
連載小説「無月の譜」作・松浦寿輝/画・井筒啓之が16日、336回で終了した。
——藤井聡太の驚くべき快進撃が止まる気配はいっこうにない。向かうところ敵なしといった按配(あんばい)で、A級棋士の面々さえ次々に連破しつづけている。どうやらこの若きヒーローは、将棋の歴史において前代未聞の高峰としてそびえ立った羽生善治の後を襲う、令和の大棋士へと成長していきつつあるようだ。
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慶応大学の名誉教授で野球通、大リーグ通の池井優さんが、「ON時代から今はOF時代」とあるコラムに書いている。
19歳3か月、最年少四冠藤井聡太さんが誕生して最終回を迎えた。
SNSにある読者の感想が温かい。
*毎日新聞連載の、松浦寿輝「無月の譜」。今朝、静かにクライマックスを迎え、朝食をとりつつ少し感動に浸る。
*いつも不思議だなと思うのは、新聞の小説が始まった時にはなんとも思わなくて、なんとなく読んだり読まなかったりだったのに、中盤でかかさず読むようになって気づいたら話題の内容に近いものになっていた。
*最年少四冠達成のニュースが一面の日に、お名前が登場するという… その不思議にまた鳥肌たってしまった。
藤井聡太四冠の活躍で大変な将棋ブームなのだという。
こんな話もあった。今年の初め、「無月の譜」に関連してこのHPに掲載したものを再録したい。
(堤 哲)
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2021年2月9日
将棋の駒の書体「無劍」は大毎取締役の号だった ― 連載小説「無月の譜」から
毎日新聞朝刊の連載小説、松浦寿輝作「無月の譜」66回(2021年2月9日朝刊)に将棋の駒の書体についてのやりとりに、こうある。
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飛車の裏は龍王、角の裏は龍馬であるが、竜介が手にしている駒の「龍王」「龍馬」の字は、隷書よりももっと象形文字に近い、絵とか図のような感じがする記号だった。
――その「龍王」「龍馬」は、隷書体よりさらにいにしえに遡(さかのぼ)る、篆書(てんしょ)体の字なんだよ。歩の裏の「と金」も面白い字だろう。字というのか、記号というのか。人が武器を持って手を広げているみたいに見えるだろ。この無劍(むけん)という書体はたしか、われわれと同郷の、信州出身の政治家の手になる書から作られた、というんじゃなかったかな。
竜介が後になって調べてみたところでは、「無劍」は、長野県松本市生まれの政治家・実業家である渡辺千冬(一八七六-一九四〇)の、書家としての号なのだった。隷書が得意な書家だったらしい。衆議院議員、貴族院議員となり、浜口雄幸内閣、第二次若槻礼次郎内閣で司法大臣を務めた。大阪毎日新聞社取締役、枢密顧問官といった重職にも就いている。理論物理学者の渡辺慧(さとし)は、その渡辺千冬の息子なのだという。
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渡辺千冬は、毎日新聞の社史に1932.12.21~39.9.1取締役とある(『「毎日」の3世紀』)。どういう経緯で取締役に就任したかは記述がない。
ネットで調べると、1908(明治41)年衆院選で当選、政友会に入党。19(大正8)年養父国武が没し、子爵を襲爵。翌年、貴族院議員に選ばれ再び政界へ。29(昭和4)年浜口雄幸の民政党内閣で司法大臣に就任。36(昭和11)年、現在の国会議事堂が完成したとき、貴族院を代表して記念演説をした、などとある。
その前段に《(東京帝国大学)卒業後、フランスへ留学し、帰国後、電報新聞社主筆》とあった。
「電報新聞」は、千冬の養父渡辺国武が1903(明治36)年11月23日に創刊。3年後に大阪毎日新聞社に買収され、題字が「毎日電報」と変わっている。
「電報新聞」創刊時、千冬はフランス留学中だったといわれ、「主筆」は一時期だったと思われる。
「毎日電報」は、大阪毎日新聞の東京進出→全国紙展開の足掛かりになったもので、さらに1911(明治44)年3月1日付「東京日日新聞」は、「毎日電報」合同とうたった。
「大阪毎日新聞」が「東京日日新聞」を吸収合併したのだ。「毎日新聞」に題字を統一したのは、1943(昭和18)年1月1日からだった。
以下は、『慶応義塾出身名流列伝』(1909年6月刊)にある渡辺千冬の紹介である。
(堤 哲)