2023年1月5日
『目撃者たちの記憶1964~2021』につながった森英介さんの話
元日の新聞に元「話の特集」編集長・矢崎泰久さん(89歳)の訃報が載った。新聞記者から1965年に月刊誌「話の特集」を創刊。「ミニコミ・ブーム」の元祖といわれ、95年の休刊まで編集長を務めたとあった。
思い出したのが大阪社会部で一緒だった元毎日グラフ編集長・森英介さんである。
森さんは、サンデー毎日の副編集長時代、1985年9月8日号で投稿俳句欄「サンデー俳句王(ハイキング)」を創設。「素人による素人のための素人の俳句欄」が受けて、現在も続いている。92年には隔月刊誌「俳句αあるふぁ」が創刊された。
お遍路が一列に行く虹の中 風天
著書『風天 渥美清のうた』(大空出版2008年刊)は、この俳句を知って、寅さん渥美清がどんな俳句を詠んだのか尋ね歩く。そのはじめの部分に矢崎さんが登場するのである。
矢崎さんは、「話の特集」を創刊した1年目に「話の特集句会」を始める。渥美さんの初参加は1973年3月、永六輔さんが連れてきた。
「俳句をやる以上は俳号がなければ、と言ってみんなで考えて、フーテンの寅だからやっぱり風天がいいということになって、渥美ちゃんもどうせオレはフーテンだからと納得した」
俳号「風天」が決まる経緯を矢崎さんが説明している。
「みんなで考えて」の会員がスゴイ。和田誠、小沢昭一、冨士眞奈美、岸田今日子、灘本唯人、黒柳徹子、山本直純、中山千夏、下重暁子……吉永小百合、山藤章二、色川武大、吉行和子、俵万智らの名前がある。
森さんが集めた「風天」俳句は221。うち「話の特集句会」が135句を占める。
矢崎さんがあげた「風天」句のベスト5。
好きだからつよくぶつけた雪合戦
秋の野犬ぽつんと日暮れて
切干とあぶらあげ煮て母じょうぶ
鍋もっておでん屋までの月明り
たけのこの向う墓あり藪しずか
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森英介さんは、これより前に女優夏目雅子さんの俳句を紹介した『優日雅(ゆうにちが) 夏目雅子ふたたび』(実業之日本社2004年刊)を出版している。
毎日新聞創刊150周年記念出版『目撃者たちの記憶』(毎日新聞東京本社写真部OB会編)を刊行した大空出版・加藤玄一社長(61歳)は、森英介編集長時代の89年に「毎日グラフ」の記者になり、7年間在籍した。
ここからは、加藤社長の思い出話。《「夏目雅子の次は誰ですか?」と僕が聞いた時、森さんは「渥美清だよ」と言っていました。しかし、その後お嬢様が亡くなられて、しばらく元気がなかったのですが、1年たった時に「そろそろ渥美清を執筆されるのでは?」と尋ねた。「あっ!忘れてた」と言うので「どこから出版するつもりだったんですか」と聞いた。そうしたら「思い出させてくれたからお前のところから出す。そのかわり1万部以下では出版しない」。というわけで1万部刷ったら1カ月で完売して増刷になりました。ちょうど渥美さんの13回忌を目前にして出版したので、松竹も宣伝してくれてタイミングがよかったですね。
『風天』は現在7刷り、3万部です》
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森さんも俳句に親しんだ。
がんばれといはれてもなあ鰯雲
これが遺作だ。森さんは2009年12月14日肝臓がんで逝去、70歳だった。
(堤 哲)