2024年1月29日
「野球文化學會賞」に輝いた、同学会創設者の元整理本部、諸岡達一さん
「野球文化學會」第７回研究大会が1月28日、法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎８階Y803教室で行われた。シンポジウムのテーマが「甲子園100年と高校野球」。元高野連事務局長・田名部和裕、元PL学園野球部監督・中村順司、阪神甲子園球場長・向井格郎、元朝日新聞記者・安藤嘉浩各氏が登壇、「甲子園野球」を様々な方面から証言・解析した。
野球文化學會は、毎日新聞社内で1993（平成5）年5月「準備会」が発足、99（平成11）年9月9日「野球文化學會」（任意団体）設立・10月1日「ベースボーロジー」第1号が発行された。「ベースボーロジー」第17集は今春発行予定だ。すべては59年入社諸岡達一さん（87歳）による。この日の研究大会で諸岡さんに「野球文化學會」賞が贈られた。本人は軽井沢在住で、欠席したが、慶應義塾大学名誉教授で學會顧問の池井優さんの推薦の言葉が会場で読み上げられた。以下は全文である。
（堤 哲）
——諸岡会員は、大学卒業後、毎日新聞社に入社、そのほとんどを整理部で過ごした。整理部は、記者が書いた原稿に見出しを付けたり、レイアウトをしたりして紙面に仕上げる地味な部署である。しかし整理部での仕事を楽しみ、それが野球に関する、活動、研究にも十二分に生かされている。
諸岡会員の最大の功績は本學會を創設したことである。鳥井守幸（元サンデー毎日編集長）、原田三朗（元毎日新聞論説委員）など毎日新聞の草野球メンバーに「學會」創設を呼びかけ、田村大五（ベースボールマガジン編集長）、記録の神様・宇佐美徹也（パ・リーグ記録部）を加え、創設にこぎ着け、初代代表幹事として会員募集、名簿作成、金銭出納、発送業務など一切を自宅で行い、1999年10月論叢集「ベースボーロジー」第１号を発刊した。
諸岡会員による「ベースボーロジー」宣言はいう。《野球を「歓喜の学問」にする。野球は人類にとっての重要な資産である。豊穣なる野球文化の土壌をさらに耕したいと思う気持ちそのものが「野球文化學會」である》
宣言を反映するかのように「ベースボーロジー」第１号は、11編の論考、１つの資料、コラムからなる堂々たる内容となって、1999年９月に刊行された。諸岡会員も「野球の素人が残した走塁への希求—飯島秀雄をコケにした人たちに贈る超おもしろ野球の“解析と所見”」を寄稿している。野球経験がまったくないオリンピック短距離代表選手から「代走専門家」としてプロ野球の世界に入った飯島。打席０、守備機会０ながら塁上からの生還率は３割９分９厘。他のランナーと比較しながら飯島の‟偉業”を評価する。
第２号に寄稿したのは「サンフランシスコ・シールズと不眠症—昭和24（1949）年における野球認識の衝撃」。13歳の諸岡少年が実際に観戦した第１戦、第６戦、オドールデイの第７戦の３試合をはじめ、全7試合の記録をすべて掲載した。「すべての記録は、自分のメモとラジオ放送、新聞・雑誌から作成した私的ノート。公式記録ではありません」と断っているが、これこそ「血の通った記録」である。
第３号に寄せた「プロ野球選手の‟死亡記事”と新聞学―ニュース価値判断の乖離に関する偏断」は、まさに諸岡会員ならではの興味あふれる論考である。著名な選手の死亡を伝える各紙の比較、政治家、映画俳優などの死亡記事との比較など『死亡記事を読む』（新潮新書）にまとめられるほどの力作である。
以上、本學會の創設と運営、「ベースボーロジー」刊行への尽力、ユニークな論考の発表により、野球文化學會賞（研究部門）の授賞にふさわしいと判断し、強く推薦する。