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2025年7月4日

ノーベル委員会・フリードネス委員長にお会いしてきました

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フリードネス委員長と(オスロのノーベル研究所で)
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同委員長の部屋に飾られていた被団協へのノーベル平和章証書
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ノーベル平和センター
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ノーベル平和センターのショップで販売されていた拙著英語版

 6月24日、オスロのノーベル研究所にフリードネス委員長を訪ねました。40分ほど委員長と会談したところ、委員長から次のような言葉を頂きました。

 「核兵器の使用を防ぎ、平和を実現するには、行事の開催だけでなく、音楽や絵画、文学などさまざまな形で(平和を)訴えていかなければなりません。この本を世に出したことで、あなたはその環境づくりに貢献しました」

 私の新著、『アウシュヴィッツの聖人を追いかけて ある被爆者と桜守の物語』が7月に岩波書店から刊行されますが、これは昨年、先に英語で出した『The Martyr and the Red Kimono』(ペンギン社)を私自身が邦訳したものです。

 フリードネス委員長はこの英語版に注目してくださり私をオスロに招いてくれたのです。委員長は7月21〜24日の日程で被爆地の広島と長崎を訪問する予定、と新聞報道されています。私から日本の事情を聞きたかったのかも知れません。

 本書は、題名からもわかるように、第二次世界大戦中に起きた未曾有の出来事を、3人の主人公を通して綴ったノンフィクションです。3人は、アウシュヴィッツ収容所で殺害されたポーランド出身のマキシミリアノ・コルベ神父、長崎原爆を生き残った小崎登明さん、そして戦争中の日本の行為の償いのために世界各国に桜を贈り続けた北海道の桜研究家、浅利政俊さんです。

 主人公たちは互いに面識はなかったのですが、想像を絶する過酷な戦争体験をしたことが共通しており、コルベ神父は命を落としましたが、自分の生命を犠牲にして他人を救うという崇高な行為を通して人間の尊厳を示し、平和と人類愛を訴えました。また、小崎さんと浅利さんはコルベ神父に大きな影響を受けて戦後、反戦と平和のメッセージを発信し続けました。

 ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争が起き、大国のリーダーたちも自国中心主義に陥り世界が混乱している今、80年前の戦争を思い起こし、真摯に平和を追求した3人のメッセージを伝えることには大きな意味があるのではないか、と思いを及ばせていた矢先、思いがけずノルウェーのノーベル委員会から声がかかったという次第です。

 言うまでもなくノーベル委員会は毎年、ノーベル平和賞受賞者を決定し、授与する世界的な権威のある団体で、昨年末には日本の被団協に平和賞を授与しています。

 本の主人公の一人が長崎の被爆者であること、主要登場人物がそろって世界平和を希求していること、などを評価してくださったようです。フリードネス委員長は核問題に関心が深く、昨今の戦争勃発に心を痛めて心底、平和の到来を願っておられます。今夏、訪日して広島、長崎への訪問を検討していらっしゃいます。広島と長崎のちがい、被爆者の反応の相違などについて、いろいろ質問を受けました。

 オスロには、「ノーベル平和センター」もあり、これまでのノーベル平和受賞者の名前や記念碑が展示されていたほか、被団協に関する展示会も開かれていました。センターのショップで、拙著英語版が販売されていたことには驚きましたが、とても嬉しく思いました。

 オスロでは、世界平和を推進したいという、国や国民の強い意思が感じられました。近代兵器を駆使した愚かで恐ろしい戦争はやめて、世界はこの国の平和と共存へのメッセージをもう少し真剣に受け止めるべきだとの思いを強くしました。このような「ソフトパワー」を国際社会にアピールしているノルウェーという国は素晴らしいと思いました。

 人類史上、唯一の被爆国である日本、そして日本人は核問題への感度が高く、平和を重視する国民の願いもまだまだ強いと思います。ノルウェーのような、ソフトパワーをもっと存分に発揮すべきではないかと痛感しました。今回のオスロ訪問で、フリードネス委員長から身に余る名誉な言葉を頂きましたが、私の著書が少しでも平和の実現に貢献できるとしたら、心からうれしいです。

(阿部 菜穂子)