2019年11月20日
奥武則著『黒岩涙香』(ミネルヴァ日本評伝選)
副題は「断じて利の為には非ざるなり」。
本の紹介にこうある。
——黒岩涙香(1962~1920)新聞記者、小説家。
明治時代、大衆新聞『萬朝報』を創刊しスキャンダリズムや社会悪の糾弾で部数を伸ばした涙香は、「探偵小説の元祖」としても知られ、『巌窟王』『噫無情』などで人気を博した。権力におもねらず、いち早く「大衆」を見据えた「まむしの周六」の全体像を描き出す。
毎日新聞1964年入社黒岩徹(79歳)の祖父。黒ちゃんは、ロンドン特派員が長く、サッチャー首相から記者会見で「とおる」と名指しされるほどで、2001年英国王より大英名誉勲章OBEを授与された。日本記者クラブ賞も受賞、現東洋英和女学院大名誉教授。
私は、元読売新聞記者の作家三好徹『まむしの周六 万朝報物語』(黒岩涙香伝、中央公論社、1977年刊。のち文庫化)を読んだが、同期入社で駆出しの長野支局で一緒だった黒ちゃんの面白がりのセンスと反骨精神は、涙香から受け継いだと思っている。
余談ながら第1回早慶戦(1903年)時の早大野球部のマネジャー弓館小鰐(芳夫)は卒業と同時に「萬朝報」の記者となり、その後「東京日日新聞」へ。キャプテンの橋戸頑鉄(信)も第1回早大アメリカ遠征後、再渡米したが夢破れて帰国、「萬朝報」の記者となっている。頑鉄は「東京日日新聞」の記者として、都市対抗野球大会を創設したことで知られる。
涙香と、早大野球部の生みの親・安部磯雄は親しい関係にあった。第1回早慶戦を報じたのは「萬朝報」と、福沢諭吉が創刊した「時事新報」だけだった。
著者奥武則氏(72歳)は、毎日新聞客員編集委員。前法政大学社会学部教授。都立新宿高→早大政経学部政治学科→1970年毎日新聞社入社。学芸部長→1面の「余録」筆者。
著書に『論壇の戦後史 1945-1970』(平凡社新書、2007年刊)、『幕末明治新聞ことはじめ―ジャーナリズムをつくった人びと』(朝日新聞出版・朝日選書、2016年刊)『ジョン・レディ・ブラック――近代日本ジャーナリズムの先駆者』(岩波書店、2014年刊)などジャーナリズム史関係の著作多数。
(ミネルヴァ書房、税込4,180円)
(堤 哲)