新刊紹介

2022年8月16日

元学芸部の池田知隆さんが新刊『謀略の影法師 日中国交回復の黒幕・小日向白朗の生涯』―大阪毎友会ホームページから転載

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 2022年9月、日本と中国が国交正常化して50周年を迎えます。半世紀前、日本と米国は、国交のない中国と対峙していましたが、ベトナム戦争の終結に向けて米中が日本の頭越しに急接近していきます。そのとき、日本人の元馬賊王が、中華人民共和国の毛沢東と中華民国(台湾)の蒋介石との双方にルートをもち、日中国交正常化を急ぐように暗躍していたことを知り、その内幕を描きました。

 その馬賊王、小日向白朗(こひなた・はくろう)は戦前、中国大陸で馬賊王として、また特務機関員として謀略の限りを尽くしますが、南京軍事法廷で釈放されます。戦後、政治の裏舞台で暗躍し、時代の影を踏むように生きて、やがて日中国交正常化に向けて情熱を燃やします。米軍基地からパスポートなしで渡米して、米国の国家安全保障会議に対して中国との国交正常化、ベトナム和平への道筋を示す一方、日本、韓国、台湾をつなぐ反共ネットワークを乗り越え、中国との国交正常化を急ぐように田中角栄首相に後ろから強くバックアップしました。

 その何事にもぶれない骨太の精神、強靭な生命力。さらには自らの人生を振り返り、「猿飛佐助であり、宮本武蔵であった」と堂々と言ってのける自己肯定感。そんな白朗に〝明治〟の息吹を感じ、日本人としての〝夢見る力〟をあらためて教えらました。

 いま、東アジアの安全保障をめぐる環境は緊張の度を増しています。近現代史を振り返ると、日本は、明確な戦略に沿って動くというよりも、大きな衝撃を外部から受け、それに反応する形で進路を決めてきました。精緻な戦略をもたず、いつもあわてて走り出してきたかのようです。日本が第二次大戦の泥沼に引きずり込まれていったのは、対中・対米戦略の誤算だった、といえなくもありません。

 日本は、日米安保条約を基軸に安全保障を考える道を選んでいますが、中国とも友好的な関係を築くことは欠かせません。半世紀前のニクソン大統領による“対中接近”は、当時の佐藤栄作首相にとってまさに「青天の霹靂」で、日本の国際認識の甘さを露呈しました。1998(平成11)年には、クリントン大統領が日本を素通りして訪中し、米中連携をうたいあげて「ジャパン・パッシング」(日本素通り)と騒がれたこともありました。

 歴史は繰り返すといいますが、単純に同じような事態が再現されるとはいえません。しかし、国益となれば、米国はふたたび、そのような選択をしないとはいえないでしょう。これまで米中の動きに翻弄され、日本は常に辛酸をなめてきました。歴史を見れば、一時的な〝正しさ〟が必ずしもいい結果をもたらすとは限りませんし、私たちはより俯瞰的な視野で世界を見つめ、想像力や思考力を鍛え直なければならないと思います。

 「米国、中国の動向を侮らず、また侮られず、アジアにもっと目を開け」

 謀略の限りを尽くして生きた白朗は、熱く叫び続けました。国際政治の冷徹なリアリズムを踏まえながら、アジアと日本のこれからを考えるうえで、小日向白朗の生涯から汲み取るべきものは少なくありませんでした。

(元学芸部・池田 知隆)

 『謀略の影法師 日中国交回復の黒幕・小日向白朗の生涯』は宝島社刊、1800円+税。