2022年11月11日
秋田支局の田村彦志さんが『街ダネ記者の半世紀 秋田県北・取材メモから』を上梓
「まだまだ書き続けたい」
そんな思いを胸に、秋田県北部を中心に取材記者として歩み、2023年4月にちょうど半世紀の50年を迎える。この年月をあまり振り返ることはなかったが、光を当ててくださったのが前秋田支局次長の工藤哲さんだった。21年4月、旧大館市役所記者室で県知事選の打ち合わせの後、「負担にならない程度に、取材の思い出を書いてみませんか」「まず、1、2本出せますか」と持ちかけられた。
自分の思い出に読者が関心を示すとは思えなかったが、各地での取材の思い出を21年4月~翌22年3月の約1年間、計49回秋田県版で連載した。この間、読者や記者仲間から時々、「見てますよ」「いつまで続くのですか」といった反応があり、大きな力になった。
私にとっての大きな転機は00年4月、地域紙の北羽新報(秋田県能代市)から毎日新聞に転籍できたことだ。元大館通信部記者で当時秋田支局次長だった高木諭さんと能代の居酒屋でお会いしたところ、「支局長の使いで来た。うちに来ないか」と突然持ち掛けられたのが、転籍の始まりだった。私にとって夢のようなことで、「これで書き続けられる」と思うと、毎日、心が躍った。
原稿は遠い記憶をたどりながら書き進めた。記者になった動機をよく考えてみると、記憶は生い立ちにさかのぼる。連載中には、出稼ぎ先を転々とした父母と生活をともにしていた10歳下の弟から何度かメールが届いた。
「兄貴の記事を読んでいると、体が固まって動けなくなる。涙が出てさぁ」。
弟もまた、自分の半生を重ねていたようだ。
連載はその後、県北部の状況や主な動きが分かるよう大幅に加筆することができた。
秋田県北部は古くから木材業や鉱業に支えられ、地元産業の栄枯盛衰を実際に肌で感じて来た。日々の取材で、苦境を抱えながらもそれぞれの人生を切り開いく人たちには何度も励まされてきた。原稿に理解を示して下さった現代書館の編集者に支えられ、思いの詰まった一冊になった。
新聞記者になって、私は一度も後悔したことがない。地方発のメディアについて考えるきっかけの一つになってくれれば、と思っている。
(田村 彦志)
『街ダネ記者の半世紀 秋田県北・取材メモから』は現代書館、定価 2,200円+税
ISBN 978-4-7684-5933-1
田村彦志さんは1951年12月、秋田県旧二ツ井町(現能代市)生まれ。1973年4月に北羽新報社(能代市)に入社。大館支社報道部長、二ツ井支局長、整理部次長を経て2000年4月に毎日新聞社に転籍。能代通信部長を長年務め、2020年から秋田支局特約通信員。北羽新報時代には国有林を題材に執筆した「林野の叫び」(1989年、日本林業調査会)、揺れる鉱山地帯を取材した「よみがえれ北鹿」(1988年、大館新報社編)などを出版。
2017年、主に地方で長く取材に励み、優れた地域報道に取り組んだ毎日新聞記者に贈られる「やまなみ賞」を受賞。