新刊紹介

2023年8月9日

元毎日新聞労組委員長、大住広人さんが『68跡 国分寺を歩く』を出版

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 大先輩・牧内節男さんから「一句つけると、もっとよかった。……俳句を勉強したらよい」との評をいただいた。う~ん、68跡ごとに一句を詠み、見出しのようにたてる。誌面がぐんと映え、読み手がぐっと引き込まれる。そんな景色が浮んだ。いいなあ、ずっとずっと昔、早稲田の建築の先生から「あんた俳句を習うといい」と言われたのを思い出した。とてつもない皮肉屋で、そのこころは「あんたには教養が欠けとる」との突っ込みだとしれたから、「ふふん」と言って、無視した。無視しなきゃよかった、かもしれない。

 刊の「はじめに」に、「全国68か所にあった国分寺跡のうち、壱岐・対馬を除く66か所を20年ほどかけて巡りきった覚え書になる。考古学の素養も古代史の知識もなく始めたのだが、巡りながら面白さが膨らみ、いっぱし請売りで蘊蓄してみようかとのやまっ気を起こし、それがまた66か所を回り切る原動力となった」と、書いた。

 書けば本にしたくなる。これはもう性ってもんなのだろう。と、いって、問屋が卸してくれるわけでもない。懲りずに二社、三社、みんな断られた。仕方がない、棚ざらし。それから暫くして、60余年来の連れが先に逝った。連れは66跡の全行程に運転手として付き合ってくれている。そこで、けちなことを思いついた。これ、香典返しにしよう。

 棚からおろし、ほこりを払い、読み直し、あとは不朽の活版工・福島清さんにまるまる与けきった。活版工は、新聞づくりの要。上流の編集・整理から下流の印刷・発送まで厄介な全流に通じ、その見識は半端じゃない。だから本づくりなど片手で間に合う。と、いっちゃあ本屋さんに失礼で、もとより福島さんはしっかり両手をつかう。編集から制作の一切を仕切ってくれ、表紙については共通の仲間・杉全泰さんに頼んだ。杉全さんはカメラマンだが、実は画才もあふれ、論より物、本表紙を見ての通りだ。

 その福島さんの仕切りに、ひとつだけ抵抗した。刊冒頭のページに、気持ちを添え連れの名を書け、という。すこし揺らいだが勘弁願い、「水先運転」なる造語をひねって福島、杉全のお二人と並べることで、手をうった。が、福島さんはさるもの、奥付の発行日を命日の8月2日とし、「大住敏子一周忌に」と添えていた。以って冥するのほかはない。

 印刷・製本、そして発送は、これも福島さんの縁で、KK毎栄に頼み、後藤さんとみなさんにおんぶだっこしてもらった。また発行の体裁では、休眠中の「水書坊」の軒先から軒下までお借りした。水書坊の「ぼう」は房ではなく坊で、仏教文化の出版社だ。もって何食わぬ顔で著者づら決め込み、法事の客に受け取ってもらい、みなさまへも送り付けた次第となる。

 あまつさえ、世のひと優しい。日々にお便り届き、配達さんも連日の束を手に目を丸くしてくれた。そんな中から一通を紹介。筑豊の旧炭住に住み着き、伝説のカメラマン・岡村昭彦を書き手としても鍛え上げた大人の子息で、自称・古本屋の主だったひとからで、「それにしてもこれほど内容充実の書物が非売品とは。いずれ、なんとか手に入らぬか、と探し回る人が出てくるだろうと、元・古本屋は思っています」とあった。思いもよらぬ一言、だが、もしもほんとうにそうなったら、うふふ、だ。

(おおすみひろんど・1992年局付編集委員で退社)

 『68跡 国分寺を歩く』は水書坊刊、非売品