2024年7月29日
彬子女王殿下の新刊『新装版 京都 ものがたりの道』について長谷川豊統合社会部長がインタビュー=7月27日「今週の本棚」再掲
古都歩きつつ歴史に思いを
京都に長く暮らし、街歩きが趣味である女性皇族が碁盤目状に広がる京都の道に込められた歴史をひもとくとどうなるのだろうか。道をキーワードに古都の魅力を紹介する毎日新聞の連載(2014年4月~16年3月)にコロナ禍に感じた思いを加え、新装本に生まれ変わった。「多くの道を歩くことで京都をより深く、立体的に見られるようになったように感じます」と作品への思い入れを語られた。
皇族の公務と向き合いながら日本美術研究の拠点とする京都で暮らすようになったのは、博士号を取得した英オックスフォード大学から帰国した後の約15年前。留学中の日々を記し、文庫版が増刷を重ねる『赤と青のガウン』の続編とも言える。「初めて一人で街を歩いたオックスフォードから、常に(警察官である)側衛がいる生活に戻りましたが、そのときの日常を感じたままに書いたという意味でつながりがあります」と話す。
行き先を決めずに道を歩き予期せぬ出会いなどに「あっ、これ面白いな」と感じたことが小さな物語になった。御池通(おいけどおり)で目に留まった「在原業平邸址(ありわらのなりひらていあと)」の石碑に牛車が行き交った平安時代の通りに思いをはせ、パン屋さんが多い今出川通では保守的なように見えて新しい他国の文化を貪欲に取り入れる京都の歴史を考察。隣にいる側衛とのやり取りを通じて自らの日常や考えていることを親しみやすい文章で紹介するなど、京都ガイドにとどまらない。
12年に亡くなられた父、寬仁さまから伝えられた「皇族は国民の中に入り、国民の求めることをするのが仕事」という言葉を常に胸にしまう。「父のような行動力はないですが」と謙遜するが、子どもたちに日本文化を伝えるために設立した「心游舎(しんゆうしゃ)」の活動も10年が過ぎた。エッセーを書き続けるのも皇室と国民の距離を近づけたいとの思いがある。「京都の歴史、文化だけでなく皇族の暮らしぶりや考えを知っていただければ」と願う。<文・長谷川豊 写真・幾島健太郎>
(毎日新聞出版・1430円)