2026年2月3日
元写真部・橋口正著『謀られた桜の宴』(文芸社セレクション)

書き下ろしの歴史小説である。作者橋口さん(71歳)自身が紹介する——。
時の太閤・豊臣秀吉は、九州平定の軍を進めつつ、「唐入り」というさらなる野望の実現を推し進めていた。そんな中、薩摩・虎居城の城主・島津歳久とその妻・於凛は、表向きは秀吉に帰順しながらも、太閤の唐入りの野望を挫くべく、策謀を巡らせる。やがて於凛は、病床の夫に代わり京の都に赴き、さらなる知略を巡らせていく…。
「いずれの日にか、仇ともいうべき関白秀吉を討たねば――」天下人・豊臣秀吉に知力・胆力で挑む女丈夫の姿を描いた歴史小説。(同書帯)
主人公は法号の悦窓で知られる島津家十五代当主貴久の三男歳久の妻。
楠戸義昭氏の「戦国女系譜・巻之二」にも採り上げられている実在の人物。同書でも「天道の恐れを知らず、君臣の法に相背く者か」と紹介されている。
また重臣で歳久とともに討死した鎌田因獄が絡む。秀吉への降伏の使者となったが、また何らかの事由で罪人となっている。その理由が定かでない。
さらに朝鮮侵攻が始まった直後に発生した梅北国兼の乱も、確たる理由付けがなされていない。
これらが秀吉の野望を打ち崩すために行われた、因獄が中心になって組み上げた、大いなる謀略であったという推定のもと物語が展開する。
最終的に歳久の妻が京で秀吉を亡き者にしようと、歴史に残る盛大な「桜の宴」を「演出」し、その野望を潰えさせる。(定価:本体800円+税)
◎出版までの経緯◎
2020年の筆者(橋口正)の毎日新聞退職とコロナ流行が重なってしまった。
予定していた、すべての予定が中止や延期に追い込まれた状況下で、親しかったアニメ制作会社の代表者から「歴史モノを書いてみませんか」との提案を受けた。
戦国モノで、城郭の蘊蓄をいっぱいに盛り込んだ2000枚を書き上げた丁度その時、アニメ制作会社の代表者が急逝されてしまった。
行き場を失った長編小説を出版関係者数人に送ったところ、文芸社から「現状、最低でも上下巻になるような長編小説は著名作家でも刊行が難しい状況。しかし、400枚程度の中編で文庫版ならば」ということで出版に漕ぎ着けられた。
筆者自身は大阪生まれの大阪育ちだが、母の故郷が鹿児島県薩摩郡さつま町宮之城。当時は「虎居城」と呼ばれ、主人公が義兄で守護の島津義久に抵抗し立て籠もった、その場所にあたる。
小学生の夏休みには、ひと夏過ごしたことが二度ばかりあり。歴史好きな伯父から、虎居城にまつわる昔話をよく聴かされた。
薩摩の言葉もうろ覚え、伯父から聞いた話もかすかに覚えている程度だが、この作品を完成させる原動力になった気がする。
◇
橋口正さんは、1954年寝屋川市生まれ。府立高卒業後、アジアアフリカ欧州を2年近く放浪。81年毎日新聞入社、東京写真部。
「学歴は高卒だったが、毎日新聞社の入社試験は『学歴不問』。ギリギリ25歳で受けてみたら、なんと合格」と別のところで書いている。
日航機墜落の御巣鷹山、伊豆大島噴火取材では搭乗ヘリに火山弾直撃などを経験。また阪神大震災発生直後、大阪湾上のヘリから、燃える神戸の街を撮影。写真部編集委員、船橋支局長、東京本社事業部、茨城県土浦通信部を経て、10年にわたる千葉県松戸通信部を最後に2020年3月退社。