2024年5月27日
記者から学者へ、福島大学に転身し、原田 英美さんが東北6県共通県版にコラム「とうほく彩発見」寄稿
毎日新聞社を退職して20年以上になるが、思いがけず再び縁ができた。一つは、この4月から、毎日新聞の東北6県の地域ブロック面のコラム「とうほく彩発見」を執筆する機会をいただいたこと。6週間に1度担当することになった。もう一つは、ゴールデンウィークに香川県の豊島で高尾義彦さんと出会い、毎友会に寄稿しないかと声を掛けていただいたこと。「会員資格もないけどいいのかな」と思いながら、こうして書いている。
私は現在、福島大食農学類で教育・研究に携わっている。専門は、農業経営学や農産物流通論。食農学類は2019年に新設された学類で、私もその時に着任した。東日本大震災と原子力発電所事故により大きなダメージを受け、農業の再生に農学部を求める声が地元から上がり設立された。放射能汚染や風評といった問題に加え、避難による人口減少や遊休農地の増加は日本の地方の課題を先取りしているといえ、農業・地域・食料・環境に関わる研究と人材育成が求められている。私も、原発事故被災地域の営農再開、人口減や高齢化が進む中山間地域の集落、浜通りや中通りの新しい農業経営などを調査したり、学生と一緒に地域課題に取り組んだりしている。
私の経歴から、新聞記者を辞めて元の大学に戻って研究者になったと思われることがあるが、そうではない。東京都出身の都会っ子で、大学での専攻は心理学。農業とは無縁だったが、記者時代に農業問題を取材して関心を持ち、農や食の問題を書くライターになろうと大学院に進学した。その時には修士課程だけのつもりだったので、博士課程への進学は予定外だったが、記者になっていなければ今の道に進むことはなかっただろう。
毎日新聞に在籍していたのは1991~2002年の11年間で、大阪本社第2整理部、奈良支局、高松支局、経済部を経験した。奈良支局の最後に、食に関わる市民団体を取材したのがきっかけで、高松支局では地方に現場がある農業問題を取材しようと思った。毎日新聞社主催の全国農業コンクールが香川県で開催されるタイミングだったこともあり、地域面で農や食をテーマに何度か連載を企画するなど、自由に取材させてもらった。農業問題の知識もなく、現場で勉強させてもらったことが多かったが、取材していく中で農業がうまくいっていないのは生産と消費が離れてしまったことにあると考えるようになった。間に立って両者をつないでいくのはメディアの仕事だと、良いテーマを見つけたように思えた。ただ、同時に、記者としての力量不足もあり、農業現場の問題をニュースとして報道することの難しさも感じていた。経済部では、倒産とリストラの取材ばかりだったが、流通や食品企業を担当し、BSEの発生や雪印乳業の集団食中毒事故などの食の安全に関わる問題に触れた経験は、大学院に進学してからも役立った。
退職後、農業ブームともいえる動きがあり、新しいタイプの農業経営者も増えてきた。大学でも、2015年の龍谷大以降、農学系学部の新設が相次ぎ、順天堂大や中央大など今後も続きそうだ。これは20年前には想像もしていなかったが、社会情勢が変化するなかで農業・農村に目が向けられてきたのは望ましい。農業の振興には消費者の理解が必要だ。福島から消費者に届くような情報発信をしていきたい。
(福島大学農学群食農学類 教授 原田英美)
【略歴】
2015年に京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)。フリーランスのライターや自治体コンサルタント、京都大学大学院農学研究科研究員、同特定助教などを経て、2019年に福島大学農学群食農学類准教授。2023年から同教授。